「保護者」の皆様へ

〜駒場寮2001年度入寮募集にあたって〜

 春眠暁を覚えずとかいわれるころとなり、今年も駒場寮入寮募集の季節が巡ってきました。私たち駒場寮自治会は今年度も入寮募集を継続することを決め、この入寮募集案内を作成し、新しい寮生が誕生することを心待ちにしております。

 ところが御存じの通り、東京大学教養学部当局は1996年度から駒場寮は廃止したので入寮募集は一切ない、「違法な」入寮募集には決して応じてはならないとの宣伝を繰り返しております。何故こうした意見の食い違いが生じたのでしょうか。

 「大学の自治は教授会の自治に非ず。」この原則は1969年に東大闘争が決着するときに交わされた「東大確認書」第十条に明文化されています。また駒場寮に関して言えば、「寮生活に重大なかかわりを持つ問題について大学の公的な意志表明があるとき、第八委員会(=寮関連の事項を担当する教官組織。現在は改組)は、寮生の意見を十分に把握・検討して事前に大学の諸機関に反映させるよう努力する」という「八四年合意書」の「確認事項三」があります。教養学部の廃寮計画はこれら既に明文化された原則を全く無視するかたちで、またストライキや代議員大会(学生の最高議決機関)決定・署名・全学投票など再三にわたる学生・寮生による駒場寮廃寮反対の正式な意志表明にも拘わらず進められてきたもので、いまだ学生・寮生と学部当局との折り合いはついておりません。そこで私たち駒場寮生としましては、教養学部の過誤を指摘し寮問題の本質的解決を図るべく、積極的に私たちの主張を展開する傍ら、私たちと教養学部との合意による最終的な問題の解決までは例年通りの寮運営を維持することとしました。このような経緯で「廃寮」後も私たちは寮に住み続け、入寮募集は継続することになったのです。

 「そうは言ってもやはり管理運営権は大学側にあるのだから駒場寮は廃寮になるのだ」といわれるもいらっしゃると思います。しかし、駒場寮では古くから財政管理権も入退寮選考権も施設面での管理権も寮自治会の下にありました。そしてこれらの権利は60年以上も駒場寮自治会の責任の下に行使され、寮生自身の手で守り続けてきたものです。この事実を一切隠したままあたかも法的に大学当局が優位にあるような言辞は完全な誤りです。このような「既得権」は、法的にも通用する概念です。

 一つ面白い例を挙げましょう。現在、教養学部が大学の敷地だと主張している場所(大学が配布する『教養学部便覧』をご覧下さい。敷地東南の「池」の外側の空白区域などです。)に一般の住居や駐車場、高速道路公団有地などが存在します。これは戦後の混乱期に一般住人が住み着き、そのまま事実上彼らの土地になってしまったためです。その証拠として一般の住居を遥か隔てて旧制一高時代の門の跡があるのです(環状六号線の信号のところ)。これほど「既得権」は法的にも強力な権利なのです。まして私たちは東京大学の学生で、勝手に住み着いた「不法占拠者」ではありません。数十年にわたって施行されてきた寮規約に則って、管理運営を維持しているに過ぎないのです。法的にみても、国有財産管理法によって形式的には学部長が管理運用権を持つとはいえそれを寮生に委ねたのであり、それを一方的に剥奪して「廃寮」を推し進めるなど、それこそ国有財産の私物化ではないでしょうか。

 「しかし、仮にいくら正論を唱えたとしても結局は力関係で物事は決まるのだ」とお考えになる向きもありましょう。しかし代議員大会に於いて、駒場寮廃寮計画への反対と96年度以降の入寮募集を支持する旨の主文が可決され、一昨年の全学投票でも駒場寮廃寮の一旦取りやめを求める主文が批准されました。大学側の圧倒的な物量と権威を前にしつつも、現在まで駒場寮が健在であるのは、広く学内外からの支援・協力を得てきたからに他ならないのです。

 ところで、教養学部の「認めない」入寮募集は今年が初めてではありません。教養学部が「違法」だという執拗な宣伝を繰り返すなか、1995年度は104名もの学生が入寮しました。この稿を執筆している私自身も実はその中の一人でした。また、96年度30名、97年度50名、98年度50名、99年度50名、そして2000年度も50名近くの新入寮生を迎え入れることが出来ました。

 以上の通り、寮問題を巡る正当性は私たち駒場寮自治会にあります。

 最後に自治寮の良さについて一言。駒場寮は自主管理によって成り立ってきました。これからもそうです。そこでは自律性が重要になります。寮生は仲間と住むことで自律性と協調性を身につけていくのです。私たちが自治寮にこだわり、これを守ろうとする理由の一つは、自分が住んでみて実感したまさにこのことにあります。これを後輩にも引き継いでいきたい、そうした希望から私たちが入寮募集の継続を行っているのだと捉えて頂ければ幸いです。


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