第5章 停電事件に現れた学部当局の学生軽視の態度への怒り

 1994年4月16〜17日の「駒場寮停電事件」を境に理論面でも廃寮反対運動は新局面を迎えた。教養学部のキャンパス工事に伴う長時間停電(連続33時間)が事前に何の連絡もなく抜き打ち的に実施された。暗闇の夜間には階段を踏み外したり釘を踏む等の事故やギターが盗まれる等の盗難が多発、駒場寮委員会は急遽抗議行動を呼びかけ、怒りに燃える寮生100人余が北寮前に集まった。長時間に及ぶ停電は寮での生活に支障を来すこと、停電の直接の影響を受ける当事者(=寮生)との協議を行わなかったこと、などを問題として16日夜から寮生は学部当局に対し抗議行動を行うことになる。寮生は守衛所に詰め掛け学生課長を呼ばせたが、午前2時頃に現れた萩昌学生課長はひたすら「事務的な連絡ミス」を詫びるばかりであった。続いて学生委員会委員長の宮下が現れ、寮生の厳しい追及の末、寮生が多大な迷惑を被っていることをを一定認めさせた。しかし寮生は、そもそもこのような不当な決定を下した最高責任者である蓮實教養学部長(当時)を呼び出すことを要求した。蓮實との連絡がつかないとのことで(実は蓮實は寮生の怒りをよそに映画を見に行っていたらしい)、教養学部当局bQの川口評議員を呼び出し、川口に計画の杜撰さを認めさせ、「今回の混乱が起こったことをお詫びします。」と言明させた。しかし宮下も川口も、今回の事件が寮生の主張する「八四年合意書」の「確認事項三」違反であることを文書化することを拒否し続けた。しかし怒りに燃える寮生・劇団関係者の追及の末、17日午前5時55分に至って学生委員会委員長・駒場寮委員長・北ホール委員会議長(北ホール委員会=寮食堂倉庫を転用した駒場小劇場を使用する劇団の協議機関)の間で合意書が取り交わされた。ここで駒場寮側が抗議する根拠の一つとして提示した「八四年合意書」の「確認事項三」について見てみよう。水光熱費の半分寮生負担で決着した「負担区分問題」(注五)の合意書(1984年3月20日)に付随し、同年五月二五日、駒場寮自治会と第八委員会との間で「確認事項」が取り交わされた。その第三項「寮生活に重大なかかわりを持つ問題について大学の公的な意志表明があるとき、第八委員会は、寮生の意見を十分に把握・検討して事前に大学の諸機関に反映させるよう努力する」が「停電事件」で学部当局を追及する武器となったのである。
 これを援用して、◇駒場寮「廃寮」という事柄が「寮生活に重大なかかわりを持つ問題」に該当し、◇91年10月17日の「計画の提示」が大学の公的な意志表明であることをそれぞれ学部当局は認めていることを確認した上で、◇学部当局は駒場寮生に対し、10月17日以前に駒場寮「廃寮」について打診を行わなければならなかった、従って◇駒場寮「廃寮」化計画はこの手続きを無視して進められたのであり無効である、という「合意書違反」が手続き論と呼ばれる主張である。以後、「停電事件」を機に広く認識された「確認事項三」は、正当性主張の強力な道具として使われていくのである。6月20日の駒場寮委員会と三鷹特別委との団体交渉の場では、主に「合意書違反」が焦点となっている。
 さて一方、学部当局はこれまで計画遂行の根拠として、91年12月のアンケートや92年5月の駒場寮総代会、6月の学生自治会代議員大会での三鷹新宿舎建設推進決議を挙げてきた。5月15日に駒場寮委員会は教養学部宛て公開質問状で九三年の学生ストライキに3,500人が賛成したこと、駒場寮の存続を求める請願署名に新たに95年度新入生の2133筆(全新入生の57.2%)が集まったことを挙げ、「三鷹」計画を現在のままで推進することの根拠を問うとを挙げ、「三鷹」計画を現在のままで推進することの根拠を問うた。28日付けで学部当局はこれに回答するが、そこで「空虚な数字を振りかざすよりも実のある誠実な議論を展開すべきである」と主張した。教養学部学生自治会は5月19日、委員長名で学部当局に対し緊急交渉を申し入れ、同月下旬に学生自治会と三鷹特別委との交渉が行われた。ここで学生自治会は◇駒場寮廃寮反対の意志を示した代議員大会決定・ストライキ・署名を「学生の意志として重んずる」こと、◇学生の意志は一貫して廃寮反対であることの二点を学部当局に認めさせた。しかし三鷹特別委は「学生の意志は重く受け止めるがそれよりも(廃寮)計画の方が遥かに重い」という発言にも見られる通り、学生自治を半ば否定するかたちで計画最優先の立場を堅持した。以後、学部当局の不当性を追及する際に寮委員会も学生自治会も手続き論、及び計画強行の不当性を主張するが、学部当局はいまだその態度を改めていない。しかし学部当局に「廃寮反対は学生の意志である」ことを確認させたことの意義は小さくない。
 7月20日、不当性を認めながらも強行路線を選んだ学部当局は「CCCL計画」の既成事実化のために『CENTER FOR CREATIVE CAMPUS LIFE 駒場』なるカラーパンフレットを配布する。これに対し、寮委員長が学部長に「抗議文」を送付した。「抗議文」の内容は、駒場寮廃寮化計画の手続き的無効性を指摘した上で、学部当局と駒場寮自治会との間で解決策が見出されていない段階での一方的なパンフ配布は「廃寮決定」の既成事実化を推し進めるものであると抗議するものである。さらにパンフレットの即時撤回・回収、及び廃寮化とその「跡地」を前提とする「CCCL計画」を即時撤回することを要求した。

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