第三部-3 争点に関する三者の主張とその分析

3. 駒場寮の占有状況━━個別占有か共同占有か
 この占有形態の問題は争点というよりは、事実認定の問題といえます。ここでは寮生が建物を共同で占拠しているのか、各部屋に個別に居住しているのかが争われました。

3.1 寮自治会の主張
 国・東大当局は駒場寮の占有状況について、寮生個人が「共同」して駒場寮を占有しているという「共同占有」という主張を行っています。しかし、これは実態と異なるものです。まず、寮生個人は寮委員会からの許可を受けて、部屋を決め各居室を占有しているだけです。他の共有部分の管理は寮自治会のもとで寮委員会もしくはフロア会議が行っています。
 寮自治会これは「個別占有」と呼ばれる状態です。「共同占有」とは要するに各個人が部屋も決めず、生活というよりもバリケードなどを築いて日夜適当に寝起きしながら占拠闘争を展開している、といった占有状況を指すのでしょう。国・東大当局は一部の少数の寮生が、無法かつ暴力的に占拠しているかのように印象づけようと、また強制執行の際に一時に寮生を全て叩きだそうと「共同占有」という主張を行ったのですが、占有移転禁止執行の際に執行官に寮自治会による整然とした管理の状況が露呈し、このため第二次占有移転禁止執行では寮自治会、全日本学生寮自治会連合、東京都学生寮自治会連合の3団体が占有者・被告として同定され、現在は寮自治会と寮生個人が「共同占有」しているという主張を行っています。
 しかし駒場寮の実態は寮自治会が共用部分を管理し、各寮生の居室の使用を許可するという形態ですので、これは明らかな誤りです。具体的には半年に一度「同室願い」(新入生は「入室願い」)を各寮生は提出し、それをもって寮生の部屋が確定します。これは現在も寮委員会管理部が厳格な部屋管理を行っており、管理形態は何ら「廃寮」以前と変わることはありません。そもそも駒場寮は「廃寮」以前と何ら変わることのない管理運営を行っているのですから、「廃寮」後急に「個別占有」から「共同占有」に変化したなどということはないのです。

3.2 国・東大当局の主張とその問題性
3.2.1 国・東大当局の主張
 国・東大当局は「被告全て(駒場寮自治会、全国学生寮自治会連合、東京都学生寮自治会連合、及び44名の個人)が共同して駒場寮を占有している」と主張しています。その理由としては、「被告らは、……学外者を本件建物に居住させ、あるいは周辺にたむろさせ、またバリケードを構築するなどして、当局の管理担当者による本件建物への立ち入りを再三にわたり共同で阻止している」こと及び、「旧駒場寮廃寮後も、違法な入寮募集を継続しており、さらに、一般の教養学部学生に対しても、クラスルーム、駒場祭(教養学部学園祭)準備、さらには仮宿泊といった名目で本件建物の利用を勧めている」こと、また占有移転禁止仮処分執行の際、執行官に協力しなかったことなどを、「共同占有を基礎づける事実」として挙げています。
 なお寮自治会は「……バリケードを構築するなどして、当局の管理担当者による本件建物への立ち入りを再三にわたり共同で阻止している」という主張に関して、何時いかなる様態で、当局の管理担当者による駒場寮への立ち入りを「共同で阻止」したというのか、またそれに被告が具体的にどのような関与をしたのか明らかにするように釈明を求めました。これへの回答は「被告個人がどこに住んでいるのか明らかにしていない状況においては、求釈明の要はない」というものでした。

3.2.2 国・東大当局の主張の問題性
 この「共同占有」を「基礎づける事実」は、虚偽で塗り固められたものです。まず、「学外者を本件建物に居住させ」というのからして真っ赤な嘘です。仮宿制度で学生は泊まることはできますが宿泊日数に制限があり、当然ながら学外者は居住することはできません。さらに、「周辺にたむろさせ、またバリケードを構築するなど」などして学部当局の管理担当者の立ち入りを阻止などと主張していますが、すると学外者を居住させたのも、周辺にたむろさせたのもこの管理担当者の立ち入り(説得隊のことか?)を阻止するためだとでもいうのでしょうか。これも嘘ですし、どうやれば学外者を寮周辺にたむろさせることができるのかも不明です。さらにバリケードを構築とまでいいますが、そのようなことをした事実はまったくありません。このような明白な虚偽の主張に対しては、いつどこで誰が行ったのか釈明を求めましたが、国・東大当局は「釈明の要なし」として回答していません。自分で主張したことも証明できない、というのが虚偽の証でなくてなんだというのでしょうか(これは地裁判決すら、事実として認定していません)。また、自主入寮募集は「募集停止」以前と変わらず行ったことですし、仮宿泊なども昔から続いている制度なのですから、これらをもって寮生の占有形態が「廃寮」以前と変化し、「共同占有」となった根拠にはならないのです。

3.3 東京地裁の「判断」とその問題性
3.3.1 東京地裁の「判断」
 判決では「前提事実にみるとおり、教養学部が駒場寮を廃寮とした平成八年四月一日以降も、被告らは、被告駒場寮自治会又はその執行機関である駒場寮委員会の指導の下に、共同して、駒場寮の廃寮に反対して本件建物の明渡しを拒み、東京大学側による本件建物の占有状況の調査を有形力を行使して拒んだこと、駒場寮への新規入寮者の募集を継続して行い、入寮の可否を決定し、入寮以外の用途においても東京大学の学生や学外者に対して駒場寮の使用を呼びかけていること、他にも駒場寮の渡り廊下の取壊作業を妨害したり、電気を違法に供給したりしていたこと等の事実が認められるのであり、これらの事実に照らすと、被告らの本件建物の占有の態様は、被告らが共同して本件建物全体を占拠して、共同占有しているとみるのが相当というべき」と述べており、「共同占有」という国・東大当局の主張を追認しています。

3.3.2 東京地裁の「判断」の問題性
 判決は、寮自治会のもと共同で「廃寮」に反対したとか、自主入寮募集を行ったとか、入寮選考をしたとか、寮利用を呼びかけたとか、電気を供給したなどの「事実」をもって「共同占有」であるとしているのですが、これらの「事実」が何故寮生個人の部屋の使用形態と関係あるのでしょうか。多くの誤認を含む「事実」ではあれ、これらに基づいたところで「共同占有」という結論は導き得ないのです。なぜなら、寮生は「廃寮」反対運動を続け、入寮募集を行いながらも、当然自分の部屋で寝起きしているからです。これは寮生活が少しでもわかっている人間には自明のことであって、裁判官も一度寮に足を踏み入れれば、「共同占有」が誤りであることは一目瞭然のはずです。しかし、「共同占有」という「判断」を下したのは、基本的には占有移転禁止仮処分執行異議申立て却下決定の引き写しなのです。ここでは先ほどのような「事実」を挙げ、「本件建物についての右被告らの占有の形態は、もはや個々の居室を生活の本拠等として使用するという通常の場合とは本質的に異なるものであ」る、としています。しかし、寮生が「個々の居室を生活の本拠等として使用」しているのは厳然として自明な事実なのです。もし、判決で挙げたような「事実」をもって「共同占有」というのであれば、それはそもそも96年4月の「廃寮」以前も駒場寮というのは長年「共同占有」状態にあったということになります(しかしそのような主張は国・東大当局も地裁も行っていません)。繰り返すようですが「廃寮」以前と以後に関して、部屋使用及び部屋管理の形態は全く変化していませんし、列挙されている「事実」と寮生の部屋使用の形態とは何ら関係がないのです。ですから「共同占有」という認定は誤り、というか荒唐無稽な主張なのです。

[←第三部-2/第三部-4→]