2001年3月11日

2001年3月10日発行の東大教養学部当局文書

「旧駒場寮の廃寮と駒場キャンパスの将来計画」への反論

東京大学駒場寮委員会

※編注:以下の文書は、学部当局が2001年度の新入生に向けて、手続き書類と一緒に廃寮ホームページのトップページのような文書および以下の文書を郵送しました。このような「東京大学」という権力を利用した一方的な情宣に抗議するとともに私たちは以下のような反論文書を作りましたので、どうぞ読んでみてください。なお、この「旧駒場寮の廃寮と駒場キャンパスの将来計画」は「学生の皆さんへ99(2)」の焼き直しであり、内容はほとんど変わっていないことを付け加えておきます。

 駒場寮は、駒場キャンパス内にある学生寮であり、現在、100名を大きく上回る学生が生活しています。駒場寮は、これまで長年にわたり、学生の教育の機会均等を保障するともに、クラス・サークル活動をはじめとする学生の自主自治活動にとってかけがえのない役割を果たしてきました。
 しかし、現在教養学部当局は、学生の意見を無視したまま駒場寮を「廃寮」にしようとしています。先日、学部当局は、「旧駒場寮の廃寮と駒場キャンパスの将来計画について」という文書(以下では、「学部文書」と言います)を発行しましたが、この文書では駒場寮問題について、学部当局の一方的な主張と宣伝が述べられています。そこで、新入生の皆さんに、この問題の真相を知って頂くために、この文書を発行することにしましたので、ぜひよく読んで頂きたいと思います。
 なお、駒場寮問題の詳しいことについては、駒場寮委員会発行の「駒場寮『廃寮』の不当性解説集」「駒場寮の意義についての我々の見解」「2001年度東京大学駒場寮入寮案内」などの冊子、およびこの駒場寮委員会公式ホームページhttp://www.netlaputa.ne.jp/~komaryo/を参照して下さい。

(1)東京大学教養学部
 教養学部の構成員は学生・教員・職員です。全構成員の意思に基づかないこの文書は、教養学部長や教養学部執行部という主体名で出されるべきものであって、あたかも学部の総意であるかのような記述は詐術というべきものです。ちなみにこのホームページは駒場寮委員会がその責任において発行しています。

(2)誤った情報
 大学当局は、「誤った情報に振り回されないようにしなさい」、つまり「自分たちが正しくて学生の主張は間違っているから学生側の主張は聞かないように」と言います。しかし、何が誤っていて何が正しいかを判断するのは、この文章と寮の主張双方を聞いた上で個々の学生が比較して判断するものであり、この問題の当事者である学部当局が「どちらが正しいのか」を言えるわけはありません。
 学部当局は、この文章だけでなく他の「学生の皆さんへ」などでも何回も「正しい認識」という言葉を使っていますが、自らを指して「正しい」という団体が一番怪しいと言われるのは、この問題に限ったことではありません。(寮側も唯一「学生の皆さんへ99(2)への反論」で自ら「正しい認識」という言葉を使っていますが、これは「学生の皆さんへ99(2)」の最後の部分で学部側が言っている「正しい認識」を皮肉ったものであると執筆者に確認を取りました。)
 このような「自分たちの主張が正しいから相手の主張は聞くな」といった態度は、裏を返せば「自分たちの主張に正当性がない」ことの根拠を自ら示しているに過ぎないのではないでしょうか。(「正しい認識」についての考察はここの下の方にも書いてあります。)

1.駒場寮「廃寮」計画の問題点

■学生不在の「計画」策定

 「学部文書」では、駒場寮の「廃寮」計画が、あたかも学生の要望を受けて決められたものであるかのように書かれています。しかし、これは事実に全く反しています。
 「廃寮」計画を策定した理由について、学部文書では「駒場キャンパスの将来構想の一環として行われた」と書かれています。しかし、実際には、駒場キャンパス再開発の具体的計画がはじめて提示されたのは、1993年6月のことであり、「廃寮」決定から2年近く後のことなのです。したがって、「廃寮」計画策定の本当の理由は別のところにあったのです。
 実際には、会計検査院により旧三鷹寮の土地が「不効率利用」と指摘されたことが、問題の発端なのです。この指摘を受け、なんとしても三鷹の敷地を手放したくなかった学部当局は、政府・文部省(現・文部科学省)の学寮敵視政策に合致する形で、「三鷹に新しく大規模な国際宿舎を建設して、旧三鷹寮と駒場寮を廃寮にしよう」という、安易かつ強引な条件を付け、学生に一切秘密にしたまま、三鷹計画を策定し、文部省に予算要求を行ったのです。

■学生無視の「廃寮」決定

 駒場寮の「廃寮」は、1991年10月の臨時教授会において、私たち寮生・学生に一切相談もなく、秘密裏に決定されました。このような、当事者の意見も聞かないという「決定」は、学内民主主義を踏みにじるものです。学部文書では、「自治団体と400回にもおよぶ話し合いを重ね」たといいますが、問題なのは、この「話し合い」が、「廃寮」決定の後になってようやく持たれたものであるという点です。さらに、その「話し合い」の中身も、「廃寮は決定事項である」という前提で、それを学生に押しつけようとするものでしかなく、学部当局の姿勢は、およそ「話し合い」と呼べるようなものではなかったのです。
 さらに、学部当局の「廃寮」決定は、1969年に東大当局と学生側の間で結ばれた「東大確認書」や、1984年に学部当局とで結ばれた「84合意書」にも違反するものでした。東大確認書には「大学自治は教授会の自治ではない」旨が明記されており、「84合意書」では、「寮生活に重大なかかわりのある問題は、事前に寮生の意見を把握・検討して大学の諸機関に反映させるよう努力する」ことが確認されています。学部文書では、「廃寮決定後」に話し合ったことをもって、「東大確認書『84合意書』に違反しているという非難」は「根拠のないこと」と述べていますが、以上の経緯を踏まえれば、事前の相談も一切なく行われた「廃寮」決定が、これらに違反していることは明らかなのです。

2.学部当局の学生無視の「廃寮」の強行

■学生の意志をねじ曲げる学部当局

 このように一方的な「廃寮」決定に対して、学生側はただちに抗議の意志を示しました。
 学部文書では「91年11月の旧駒場寮総代会は、『三鷹に新寮を建設せよ、ただし駒場廃寮を前提としないこと』と決議しました」と述べ、これを「矛盾を含んだもの」としています。しかしこの記述は、総代会決議のうち、自分たちに都合のいい部分だけを取り出した不誠実なものです。実際には、この総代会では、「話し合いが不十分であるから、予算要求を一年凍結せよ」という内容も同時に決議されたのです。
 学部文書では、「新学生宿舎の建設は2つの旧寮の廃寮とワンセットになっていて切り離せない」ものだと述べられています。しかし、そもそもこの条件自体が、学生の意見を聞かずに決められた一方的な条件だったのです。それゆえに、寮生・学生は、学部当局の計画に対して、「駒場寮の『廃寮』を前提としない建設計画」への変更を求めたものであり、同時に学内論議を行うために予算要求の一年凍結を要求したのです。しかし学部当局は、これらの寮生・学生の意見を無視したまま、91年11月28日の交渉において、一方的に計画の推進を宣言したのです。

■学生の公的な意志表示を無視し、恣意的な「アンケート」を実施

 学部文書では、学部当局が、「アンケート調査」の結果から、「大多数の学生の皆さんの意向が、駒場寮の存続よりも三鷹国際学生宿舎の建設にあるものと判断し」たと述べられています。
 しかし、第一に、このアンケートの質問項目では、駒場寮の「廃寮」の是非については一切触れられておらず、非常に恣意的な内容でした。さらに、学生の正式な意志表明は、あくまでも代議員大会などの公的な決議で示された「廃寮反対」であるにもかかわらず、決議よりもアンケート結果を優先するというのは、いわば「世論調査の結果を国会決議よりも優先する」ようなものであり、民主主義の原則を否定するものです。
 駒場寮問題に関して、公式に示された学生の総意は一貫して「廃寮」反対でした。93・94年の2年連続での学生ストライキや、学生投票などによって、学生は「廃寮」反対の意志を全学的に強く表明しましたが、学部当局は「廃寮は決定済み」という姿勢で学生の意志を無視したのです。

■話し合い解決を否定する、暴力的な実力行使

 駒場寮問題の解決に向けて、学生側は粘り強く、話し合い解決を求めてきました。しかし、1996年4月、学部当局は、100名以上の寮生が生活している駒場寮への電気・ガスの供給を停止するという実力攻撃を行い、さらにはパワーショベルで寮施設を破壊する、数百名のガードマンを雇い暴力を振るうなどして、文字通り暴力的に駒場寮生を叩き出そうとしてきました。特に、電気・ガスの停止に関しては、東大職員組合なども含め広範に強い抗議の声が上がり、学部当局自らも「人道的に良くない」と認めざるを得なかったほどでした。
 学部文書では、「予告済みの措置だった」として、この電気・ガス停止を正当化しています。しかし、事前に予告さえすれば非人道的な行為を行っていいはずがないのは明らかです。

■裁判による解決は許されない

 学部当局は、先述したような暴力的な追い出しに失敗したため、今度は学生を裁判に訴えました。しかし、このようなことは東大史上でも前代未聞のことであり、決して許されないことです。
 「学内問題は学内構成員同士の話し合いによって解決する」というのが、大学の自治の原則です。学部当局による「明け渡し」提訴は、追い出しのための強硬手段であるばかりか、大学自治の原則をも踏みにじるものなのです。

3.「廃寮」遂行のための虚偽の宣伝について

■現実性のない「再開発計画」

 学部当局は、駒場寮の「廃寮」を学生に納得させるために、「キャンパス再開発」の必要性を主張しています。しかし、この「再開発計画」は、そもそも学生との相談なく一方的に決められたものであるという問題点に加え、実現可能性がないものです。したがって、この「再開発計画」は駒場寮の「廃寮」を遂行するための宣伝材料に過ぎません。
 先に述べたように、駒場キャンパスの具体的な「再開発計画」(「CCCL計画」)が立案されたのは、「廃寮」決定から2年もたって後のことでした。しかし、この計画では「40億円の募金を集める」としていましたが、実際にはその1%しか集まっていないのです(この40億円も使い込んでしまったと言われています)。したがって、駒場寮を取り壊してしまえば、その後に残るのはサラ地だけなのです。

■問題の論点をそらす言いがかり

 さらに、学部文書では、駒場寮問題の本質からはずれた点で、言いがかりまで述べています。、例えば、電気停止後の1996年以降、学内自治団体の合意に基づいて行っていた駒場寮への電気供給を、「盗電」呼ばわりしています。また、駒場寮の宿泊経験者が放火を起こしたと述べています。しかし、駒場寮の宿泊者に関して、駒場寮での宿泊の事実と、大学外でのその人の(駒場寮と無関係な)行為とは何の関係もないことは明白です(そのようなことを言うのであれば、東京大学出身者による汚職など無数の「犯罪行為」の全責任を、東大当局が負うのでしょうか)。これらは、問題の論点を意図的にそらそうとする、悪質な言いがかりであると言うほかありません。

4.駒場寮問題の解決に向けて

 先述したように、駒場寮問題の解決は、裁判ではなく、あくまでも話し合いによるべきものです。そして現在、私たち寮生・学生側は、話し合い解決のための積極的提案を行っています。

■「400人振り替え提案」について

 この提案は、「三鷹国際学生宿舎の残り400人分の定員を学内に振り替え、駒場寮を存続させよう」というものです(詳しい内容は、冊子「駒場寮の意義についての我々の見解」をご覧下さい)。この提案に対して、学部文書は「駒場全体のキャンパス計画を無視し、社会に公約した計画を反故にしろと求める暴論」であると述べ、否定する姿勢を示しています。
 しかしまず、「キャンパス計画」については、先述したようにすでに頓挫しているのが実状です。次に、「社会との公約」については、社会的に見ても、駒場寮のような教育の機会均等を保障する学生寮は、不況も深まる中でむしろ必要とされており、「廃寮」を求める広範な世論など社会的には存在しません。学部当局の言う「社会との公約」とは、実際には、学生に秘密で行った「文部省との約束」と言うべきものです。
 なお、2001年2月22日に行われた学生自治会との学部交渉の席上、学部当局は「教授会で決定すればこの提案の実現は可能」ということを明言しています。いまこそ、多数の学生が一致して要求することで、駒場寮の存続への展望は切り開ける状況なのです。

■駒場の将来のために

 学部当局は、学生無視の「廃寮」を強行してきています。しかし、決定から10年ほどたった現在においても、学部当局の不当な宣伝・攻撃にもかかわらず、駒場寮では100名を大きく上回る学生が生活しており、学生の多数が駒場寮の「廃寮」に反対し続けているのです。それは、駒場寮の「廃寮」が不当であり、また駒場寮が学生にとってなくてはならないものであるからなのです。
 学部当局は、駒場キャンパスの将来について考えるよう、学生に対して呼びかけています。しかし、将来の駒場のためにこそ、話し合い解決を拒否し「廃寮」を実力で強行する学部当局の姿勢を変えさせる必要があるのです。
 そのためには、私たち学生が十分に議論を行い、実際に声をあげていくことが必要です。最後に私たちは、新入生の皆さん一人一人が、この駒場寮の問題を、自分自身に関わる問題として考えてくれるよう、呼びかけるものです。

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