第19章 そして99年度、報告並びに今後の展望

一、証人尋問の実施を勝ち取った大きな運動
 これまでみてきたような寮存続運動の盛り上がりに関わらず、駒場寮「明渡し」本裁判は静かに進行している。そして、裁判の進行では一つのヤマ場を迎えた。今後の進行について話し合うための進行協議会が開かれ、証人尋問を行うかどうかが焦点になったのである。
 我々は、
一、そもそもこの問題を裁判で「解決」するのはふさわしくないが、
二、仮に裁判を進めるにあたっても、この問題は、教育の機会均等・大学の自治など非常に重要な論点を持つものであるから、十分な事実調べ、すなわち十分な証人尋問を行うべき
と主張した。これに対し、国(当局)側は、事実調べなどいっさい必要ないとしたのである。そして、あろうことか裁判所はこの国側の主張にすり寄って第1回目の進行協議では証人尋問は必要がないという極めて不当な見解を示したのである。
 これを受け、我々は裁判所に対し、証人尋問を行って慎重で十分な審理を行うよう、署名集めや地裁前でのビラ撒き、進行協議への結集行動などの運動を開始した。この結果、署名は最終的には3300筆以上、また教職員からも署名が20筆以上集まるに至ったのである。
 こういった広範な運動の結果、裁判所は第3回の進行協議会で証人尋問は必要ないとの見解を改め、証人尋問を行う事になった。弁護士によれば、裁判所が態度を変えるということは非常に少なく画期的なことだそうである。我々の運動の成果が目に見えた一つの事例であろう。しかしながら、実際に調べられるのはたったの3人の証人だけであり、十分な審理にほど遠いものである。今後、我々はより多くの証人尋問を実施させるべく、今後も継続して裁判所に対しても圧力を加えていかなくてはならない。

二、学内での運動・・・寮祭から代議員大会まで
 なお、裁判所への行動以外で、特筆すべきことを以下に列挙しよう。1999年も夏の寮祭が圧倒的に開催され、とりわけ新入寮生が主体となって成功を収めた。寮祭ではなんと寮歌が復活し、まさに寮祭のルーツである寮歌祭としての一面性も見える、非常に完成度の高い寮祭であったといえよう。
 駒場寮の安全確保についても記述しよう。現在、駒場寮は、当局の一方的「廃寮」宣言以降、最低限の安全確保すら保証されていない状況である。寮の三方は工事用フェンスで囲まれており、また、非常灯や火災報知器の多くが故障、放送設備の一部が故障しているなどのため、非常時には早期発見が遅れ避難経路が非常に限られる可能性が非常に大きい。しかも、当局は「駒場寮の安全管理に配慮している」旨、以前文書で確約しているにもかかわらず、である。
 この状況に対し、代議員大会でも、フェンスの撤去や非常灯・火災報知器・放送設備の修復などを求めた「駒場寮における安全確保のための緊急提案」が、圧倒的多数の賛成により可決している。また、この「異常」な状況に対して当局に意見を出す教官も少なくない。寮委員会は、こういった大きな世論を背景に当局に対して代議員大会決定に沿った内容の要求書を提出した。
 しかし、これに対する当局の回答は、「非常灯のまわりに住めばよい」「火事があったら自分で逃げろ」「何かあったら大声で叫べばよい」「寮生名簿を提出すれば検討する」という不当なものであった。これまで当局が寮生の個人情報を収集して、個人的に恫喝をかけたということを考えれば、寮生名簿を提出することは決してするはずがないことを知っての回答である。火事で焼け死ぬか、あるいは当局の恫喝を受けるか、死に方を選べ、というに等しい回答である。一度公言した約束を全く守らずに、あろう事か多くの人命に関わることを利用してまで「計画」を遂行しようとする醜い姿がまたもや浮き彫りにされたのである。
 また、前々章で述べた「マスタープラン」の前段階である一研跡地埋蔵文化財試掘調査に対する抗議集会及び抗議行動を行った。キャンパスの構成員である学生に広く訴え、当局に対して中止を求める要求書を提出したが、当局は一方的に工事を行ったままである。
 さらには、今年の春及び秋の代議員大会でも、寮存続を求めるなど駒場寮委員会提案の主文に関していずれも圧倒的賛成で可決されている。こういった学生の意志をきちんと大学に反映させるためにも、当局は即座に「廃寮」計画を撤回すべきである。
 当局の「廃寮」策動の前に、我々駒場寮存続を求める者達の結束は固い。そしてそれは駒場寮に居住する寮生だけでなく、寮生の運動によってますます広がっているのである。当局が犯した過ち=「廃寮」決定を撤回し、寮を存続させることが、本当の大学のあるべき姿であり、真の英知と呼べるのではなかろうか。いやしくも学問の府である大学が、理性的な解決を放棄し、手段を選ばず目的=「廃寮」計画の遂行に躍起になるのは、非常に醜い、あるまじき行為である。我々は決して「廃寮」決定を許さないし、今後も断固として闘い抜くであろう。そして、それを大きな世論が支えるならば、駒場寮の存続は必ずや勝ち取れるものである。今この文章を読んでしまったあなたの主体性が、まさに今問われているのだ。
 なお、より詳しく駒場寮問題について知りたい方は、駒場寮委員会が発行しているビラや資料集を是非お読みになってほしい。ホームページ(http://www.netlaputa.ne.jp/~komaryo/)も開いているので、そちらの方も参照して戴きたい。その上で、あなたが駒場寮問題の重要性を理解し、駒場寮存続運動に参加するのを切に希望して、この文章を閉じることとしよう。

(以上、1999年11月執筆)

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