第17章 またも描かれた歪んだ餅「マスタープラン」

 話は前後するが、駒場寮をめぐる学内状況を語る上で、必要不可欠な「マスタープラン」について解説しよう。この「マスタープラン」は、正式には「駒場地区駒場Tキャンパス整備計画概要」といい、98年12月の教授会で執行部により提出され拍手承認されたものである。しかしながら、この計画の存在すら知らない人は多く、また、その計画は決定過程、そして内容に極めて多くの問題を含んでいるのである。
 「マスタープラン」は現在第三段階まで計画されており、立て替える予定の建物15、新たに立てる予定の施設5、という大規模なキャンパス再開発計画である。もちろん、すべてが概算要求をすぐに通るものではないので、今後10年以上にわたってキャンパスを拘束する、全学にとって極めて重要な計画である。
 当局によれば、この計画は、「建設委員会にも諮り、総務委員会で途中経過を報告するなど、可能な限り当キャンパスの構成員の意向を尊重するように行われたことはいうまでもない。また、12月教授会にも諮り、若干の反対意見や疑問もあったが、最終的に承認された」とされているが、はたして「当キャンパス構成員」とは建設・総務委員会のことなのだろうか。これが「可能な限り」のレベルであろうか。しかも、この計画では学生の福利厚生施設の大幅な立て替えなどが構想されているが、この計画について当局が学生の「意向を尊重」したことはこれまで一度もない。学生は構成員ではなかったのであろうか。さらには、計画の重要性に鑑みても、審議の時間が余りに不十分ではなかろうか。「若干の反対意見や疑問(後ほど解説)」にもかかわらず、一回の教授会で拍手承認とはあまりにお粗末な議論ではないか。

 それでは、実際にこの計画の内容に目を向けよう。この計画の一つの目玉は図書館の移転であり、教官からもこの点に関して強い反対意見が出ている。その論拠としては、これまで2万平方メートルをうたい文句にしていた図書館が1.4万平方メートルと大幅に縮小されていること、また、図書館の移転予定地がこれまでは図書館の性質を鑑みてキャンパスの中心部を想定されていたのに、キャンパス東部のはずれにある一研跡地になっていること、また、この土地は非常に湿気の非常に多い土地であり、図書館の建設には向かないこと、などがあがっている。そのような計画にも関わらず、当局執行部がこのような案を出してきたのはなぜか。
 それは、これまでのCCCL計画では一研跡地にたつ予定であった美術博物館やホールが計画の破綻によって建たないことが明らかになったからである。しかしながら、「廃寮」を既成事実化し、無理矢理空けた土地をなんとしても埋めるために今回図書館が犠牲になったのである。これまで当局の論理の大きな柱であった「キャンパスの狭隘化」という「事実」をなんとしても作り出すために、このような歪んだ計画が策定されたのである。しかも、この計画をたとえすべて実行したとしても、駒場寮を残すぐらいのスペースが残っていることが図面をみれば一目瞭然であり、「キャンパスの狭隘化」が事実でないことを逆に物語っているのである。
 ほかにも問題点は枚挙にいとまがないが、この計画ではゾーニングの名の下に東部地区に図書館から生協から学生会館から、学生の福利厚生施設を全て押し込めるという基本方針が如実に現れている。しかも、当局は「学生との合意なく学生会館の建て替えを行うことはない」といいながらも、このマスタープランではしっかりと学生会館の建て替えと跡地への体育研究棟の建設が「決定」されているのである。たとえ今後合意に達しないとしても、駒場寮にたいするこれまでの当局の攻撃を考えれば、当局はこの計画を、あらゆる手段で学生に押しつけてくるのは間違いない。駒場寮「廃寮」は、今後のキャンパス再開発計画という観点からも、断固として粉砕しなくてはならない。
 さらに、計画では東部地区の大規模な「再開発」を計画しているが、東部地域は駒場キャンパスでもっとも植生豊かな地域である。原生林の面影を残し、また一二郎池は都内有数の湧水地でもある。しかしながら、この計画が実行されたならこれらの多くの緑が消滅してしまうのは確実であろう。これまで寮に対して行われた暴力的工事の際にどれほど多くの緑が消滅したかご存じであろうか。当局の環境委員会は「伐採した樹木の数だけ植樹する」といっているが、現実には今日まで全く行われていない。また、たとえ同数の樹木を植えたとしても生態系が確立するまでには非常に長い年月を必要とするし、湧水にたいする影響も少なくなかろう。
 以上のような観点から、この「マスタープラン」は決して看過できないものであり、今後なんとしてもこの計画を撤回するよう求めなければはならない。実のところ、これらの学生の福利厚生施設に関する計画のいびつさは、マスタープランがひとえに「廃寮」を一刻も早く遂行するという目的へ奉仕させられていることに帰因する。決定そのものが不当であり、手続き的にも無効であり、その手段も決して許すことのできない「廃寮」計画を、当局は「東大のメンツ」を保つためにあらゆる手段に訴えているが、この状況を突破してこそ、本当に創造的なキャンパスを構築できるのである。

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