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平成九年(ヨ)第六〇一号
債 権 者 国
債 務 者 東京大学駒場寄宿寮自治会
外四八名
一九九七年三月六日
右債務者ら( 名)訴訟代理人
弁 護 士 加 藤 健 次
同 尾 林 芳 匡
同
藤 田 正 人
外
東京地方裁判所民事第九部 御中
本件申立を却下する。
との裁判を求める。
第二 申立の理由第一(被保全権利)に対する答弁
一 第一項(当事者等)について
(二)債務者全寮連、同都寮連については認める。
(一)債務者らのうち債務者○○ら二〇名について占有移転禁止の仮処分がなされていることは認める。
二 第二項(本件建物の所有関係)について
1 同項1(債権者の所有)については認める。
2 同項2のうち、国有財産法九条一項、文部省所管国有財産取扱規程四条、五条、同規程六条、東京大学所属国有財産取扱規程四条の記載内容については認める。
3 同項3のうち、本件建物が東京大学教養学部に在籍するための学寮とされていること、入寮者の選考について債務者駒場寮自治会がその選考を行っていること、寮生が一人月四〇〇円の寄宿寮と光熱費を支払っていることは認め、その余は争う。債務者駒場寮自治会は、東京大学との合意にもとづき、入寮者の選考を含め、自治寮としての全面的な管理権を有している。
三 第三項(債務者らの不法占拠)について
第二 「保全の必要性」について
一 「公益性」について
(一)について
第一段及び第二段中、駒場寮の老朽化が著しいこと及び現代の若者のニーズに合致せず敬遠されがちであること等は否認する。三鷹学寮の敷地が効率的に使用されていないことは不知。債権者は駒場寮が老朽化している旨主張するが、一九九六年五月頃に行われた一級建築士による診断の結果、次のような理由から、一〇年おき程度にメインテナンスを行えば、数十年は充分使用に耐えうる建造物であることが確認されている。
<1>駒場寮は対称的な構造を持つレギュラーな建造物であり、かつ、水平断面積の大きさ、桁外れの柱の多さから判断すれば、耐震性も強い。建物は梁が多く、骨組みが非常によい。本体コンクリートの素材に使用している砂が良質であるため、本体には亀裂も見られない。窓の周囲のひびはコンクリート本体のものではなく、モルタルのひびであり、二次的なものに過ぎない。
<2>長期に使用する場合には、建物が新しい機能に対応できる柔軟性を有していることが必要であるが、駒場寮は各階の高さが三・六メートルと通常の一・五倍程確保されているので、各種のパイプ、ケーブルを敷設することが可能であり、様々な機能に対応できる。また、債権者は、駒場寮の入寮者数が過去二〇数年間にわたり収容人員(七五〇名)の半数程度でしかなく、空き室はサークル室として利用されていた旨主張する。
しかし、大学当局と駒場寮自治会との間では、在寮者数は各部屋三人、合計四五〇名程度を最大限度とすること、大学のサークル用施設が不足しており、他方、駒場寮が大学の敷地内にあることから、サークル室としての利用も認めること等が了解されており、その結果、甲第四八号証記載の在寮者数となっていたものである。現に、大学は、これまで、駒場寮自治会に対し、在寮者数を増やすようにとの申し入れをなしたことは一切無い。
第三段は否認する。
一九八九年頃、国有地の有効利用化のため、国有地の利用状況の見直し、及び、非効率的な利用にかかる国有地の他用途への転換が行われ、東京大学教養学部については旧三鷹寮敷地が非効率的であるというクレームがつけられた。そのため、教養学部当局は、国に旧三鷹寮敷地を没収されることを避けるため、一九九〇年一月、急遽「将来問題懇談会」を設置し、旧三鷹寮敷地に大規模学寮を建築するという計画を作成し、同年及び翌一九九一年、政府に右計画のための予算の概算要求を提出した。教養学部当局は、この大規模学寮の建築計画案を通すためには他の学寮を併合する必要があると考え、旧三鷹寮及び駒場寮の廃寮を事実上決定した。なお、この大規模学寮建築のための概算要求については、事前に学内や教授会での議論もなされず、学生は勿論大多数の教員にも秘密でなされ、同年八月頃、一九九二年度政府予算案に計上される目処がついた後、一〇月一九日の臨時教授会において初めて「既に予算措置が決定したので変更は不可能である」と発表され、教授会は事後承諾をなした。
以上のとおり、駒場寮廃寮は、一九九〇年頃、教養学部当局が旧三鷹寮敷地の「没収」を免れる手段として決定したものであり、教養学部当局の「私利」を図るものであって、何ら「公益」を図る目的をもったものではないのである。第四段は不知。
(二)について
争う。
「キャンパス・プラザ」建築計画が策定されるに至った経緯は次のとおりである。
すなわち、前述のとおり、旧三鷹寮敷地への大規模学寮の建築計画は駒場寮の廃寮と抱き合わせであったため、駒場寮廃寮後、その跡地を何かに利用しないと、前述の国有地の有効利用化との関係で、国に駒場寮跡地を「没収」される危険性が生じることとなった。そこで、大学当局は、駒場寮跡地の利用計画を策定する必要性に迫られ、急遽、その計画の検討を開始し、一九九三年六月、「CCCL計画」なる厚生施設を中心とする駒場寮跡地開発計画を発表するに至ったものである。
このように、「CCCL計画」、「キャンパス・プラザ」建築計画は、一九九三年頃、教養学部当局が駒場寮跡地の「没収」を免れる手段として決定したものであり、教養学部当局の「私利」を図るものであって、何ら「公益」を図る目的をもったものではない。
2 「債務者らの占有に伴う保安・治安上の危険」について
(1)について
<1>教養学部当局が一九九六年四月八日、債務者寮自治会の承諾なく、駒場寮に対する電気及びガスの従来の供給経路を停止するという違法な自力救済行為をなした事実、<2>債務者寮自治会が、自ら管理運営している寮食堂南ホールから駒場寮に電力を供給している事実、学生自治団体協議会における各自治団体の合意に基づき、サークルの使用する建物から電力の供給を受けていた事実、<3>債務者寮自治会が駒場寮内にプロパンガス数個を配置した事実、<4>教養学部職員が一九九六年六月三日、債務者○○○○所有・債務者自治会占有にかかる電気ドラムを窃取し、また同人所有にかかる電気線を切断する等の刑事犯罪を犯した事実、<5>債務者寮自治会が、寮生のために、石油ストーブを購入設置した事実は認めるが、その余は否認ないし争う。
債務者寮自治会は、教養学部当局が債務者寮自治会の承諾なく、駒場寮へ従来の電力供給経路に電気が流れないように配電設備を操作し、また、駒場寮への従来のガス供給経路にガスがながれないよう操作したため、寮生の「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するため、別経路から電力を供給し、また、プロパンガス数個を購入設置しているに過ぎない。
かかる債務者寮自治会の行為は、自らの管理設備からの電力供給であり、また、使用者の承諾を得た電力の供給であるから、何ら「盗電」等ではないことは明白である。さらに、右行為は、教養学部当局による違法な自力救済行為に対し、債務者寮自治会が憲法上の要請に従ってなしたものであるから、何ら違法であると言いうる余地のない行為である。
なお、債権者は漏電、異常電圧による事故の危険性を指摘するが、債務者寮自治会としては電力の供給に関する安全性について、できる限りの配慮をしており、仮に配慮が不足しているというのであれば、債権者において、従来の電力供給経路による電力供給を再開するか、もしくは具体的対応策を提案すべきである。
また、債務者寮自治会が寮生のために、プロパンガス及び石油ストーブを購入設置した行為は、寮生の「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するためになしたものであり、何ら違法な行為ではない。債権者は、プロパンガス、石油ストーブの火の不始末による事故の可能性を指摘するが、これらはいずれも市販の物であり安全基準を満たしているものであるから、何ら具体的な危険を生じさせるものではない。さらに、債務者駒場寮自治会はストーブ等を自治会として購入設置することにより、火災等の自己が発発生しないよう細心の注意を払っている。
(2)について
火災事故発生については認める。
なお、これら二件の火災事故は、その発生箇所、発生時刻等から、いずれも氏名不詳者による放火が原因と考えられているところ、これらが早期に発見消火されたのは駒場寮生の力によるところが大きく、教養学部当局もこれに感謝の意を示している。
すなわち、債務者駒場寮自治会が駒場寮を管理占有していることと、右二件の火災事故の発生は全く無関係のことである。このことは教養学部当局もはっきり認めていたものである。
(3)について
債務者寮自治会が、数十年前から「仮宿泊制度」を設けており、右制度により債務者寮自治会の事前の承認を得た者の宿泊を認めている事実、救急車が二回出動した事実は認めるが、その余は否認する。右「仮宿泊制度」は、寮生活上、寮生が知り合いや親戚を駒場寮に宿泊させることを全面的に禁止することは妥当でないこと、他方、債務者寮自治会の関知しないところで、寮生以外の者が駒場寮に宿泊することは、債務者寮自治会が駒場寮を管理していく上で妥当でないことから、数十年前に設けられた制度であり、右制度については教養学部当局も了解している。債務者寮自治会が、右制度に基づき、寮生以外の者の宿泊を許可したとしても、何ら問題はない。また、債権者は、学外者が駒場寮に宿泊すると不審火が発生する危険性を高めるなどと主張するが、右述べたとおり、数十年来、学外者は「仮宿泊制度」によって駒場寮に宿泊してきていたのであり、その間、不審火が発生する危険が高まったなどということは一切無いのであるから、債権者の右主張は全く根拠を欠くものである。
(二)「その他債務者らの占有に伴う不法行為」について
(3)「その他」について
第一段は否認する。第二段のうち、債務者寮自治会が従来どおり駒場寮を管理運営している事実は認めるが、その余は否認する。第三段のうち、債務者寮自治会が駒場寮についての管理運営権に基づき、従来どおりの平穏な管理運営行為を行っていることは認めるが、その余は否認する。
否認ないし争う。
三 「新入生が本件紛争に巻き込まれることを予防する必要があること」について
債務者寮自治会が、その入寮選考権に基づき、従来どおり新入寮生を募集している事実は認めるが、その余は否認ないし争う。
四 「債務者らに不利益のないこと」について
債務者中の寮生が、債務者寮自治会の管理下において、駒場寮を学寮として利用している事実は認める。なお、債務者寮自治会は、駒場寮を一九五〇年頃から約五〇年間にわたり、占有管理してきたものである。また、債務者全寮連、債務者都寮連は三二年以上にわたり、駒場寮の部屋を占有使用してきたものである。
第一段は争う。第二ないし第四段は不知。なお、債務者寮自治会にとって、駒場寮は他に代替しうるものはない唯一の建物である。また、債務者寮自治会の管理運営下で駒場寮に居住している寮生、サークル室として借りている学生にとっても、駒場寮は他に代替しうるもののない唯一の建物である。
否認ないし争う。
なお、債務者寮自治会と教養学部当局とは、一九九六年三月一日付で、<1>プレハブの「仮サークル棟」をもって、寮内で活動するサークルを寮から排除する口実としないこと、<2>駒場寮内の個々のサークルの活動に支障が起こらないようにするという、従来の学部の方針に変わりはないこと、<3>「プレハブ」は、寮内サークルスペースの代替というわけではないことを書面で確認している。債権者の主張は、右確認を一方的に覆すものであり、全く不当なものである。
また、右「仮サークル棟」はまさに「仮」のプレハブ建物であり、かつ、本年秋にはリース期間が終了するものであり、かかる点においても堅固な駒場寮の代替施設たりうるものではない。
2 同項2(占有の不法性)について
債務者寮自治会の本件建物の占有、債務者らのうち駒場寮内の各部屋を占有している者の占有は、何ら不法性を有するものではない。
3について
否認ないし争う。
否認ないし争う。
教養学部当局が、債権者主張の内容の記載がある文書を新入生らに対して配布していた事実は認める。もっとも、債権者のいう「廃寮」決定は、前述のとおり、違法無効なものであるから、これを予告したとしても何の意味もないことは明白である。
第一段は否認ないし争う。第二段のうち、教養学部教授会が債務者寮自治会の意思を無視して、一方的に駒場寮の廃寮を決定した事実は認めるが、教養学部当局が学生、学生自治団体、債務者寮自治会の意見を聴取し、これを計画に取り入れて反映させるべく対処してきた事実は一切否認する。教養学部の学生、学生自治団体、債務者寮自治会の意思は一貫して駒場寮の廃寮に反対するものであったにもかかわらず、債権者が主張する教養学部当局による意見聴取等は全て駒場寮の廃寮を前提とするものであった。
2 「占有移転禁止仮処分の申立て、その決定及び執行」について
債権者が、債務者らのうち二〇名を債務者とする占有移転禁止の仮処分を申し立てた事実、債務者らのうち八名が執行異議を申し立てた事実は認める。
3について
否認ないし争う。
五 「大学学生寮について明渡断行の仮処分が認められた裁判例」について
債権者は数件の裁判例をあげて本件が過去に明け渡し断行仮処分が認容された事例と類似する旨主張する(甲五四)。しかし、債権者指摘の裁判例は次のとおり、本件と全く事案を異にするものであり、個々の結論の当否は別として、本件に関する先例とはなりえないものである。
群馬大学事件において群馬大学工学部は、既に建設会社との間で建設請負契約を締結し、工事に必要な材料置場・鉄筋加工所・原寸作成所・仮枠作業場・作業員宿舎当敷地として使用することを約していた。これに対し本件のキャンパス・プラザは、その建設に駒場寮全体の取り壊しが必要なものではなく、駒場寮全体の跡地の再開発計画は、未だ抽象的・一般的なものにとどまっている。
群馬大学事件において明渡対象物件は、桐生市天神町一丁目に所在しており、代替寮として同市天神町三丁目に新しく寮が建設され、旧寮生は新寮への当然の入寮を許可されていた。これに対し本件では、旧寮生に対して旧寮と同様の新寮への入居を当然に許可したものではない。教養学部当局は、ただ一般的に、新たな通学費や寮費の負担を要する三鷹国際学生宿舎への入寮の斡旋を「相談するように」と宣伝しているのみであるばかりでなきく、逆に後期課程の学生や大学院生に対しては三鷹国際学生宿舎に余裕がない限り入寮させない旨明言していたのである。したがって、代替物件の提供があったとはいえない。
群馬大学事件においては、既に旧化学系校舎が解体済みであり、これに代わる新施設が直ちに建築されないと研究上の支障が生ずる具体的な蓋然性が存していた。これに対し、本件では駒場寮を取り壊す前提として、他の福利厚生施設等が解体されているわけでもなく、具体的な教育研究上の支障は生じていない。
東京工大事件の債務者はいわゆる中核派の指導的立場にあり、大量の学外者を宿泊させて「佐藤訪米阻止」「沖縄デー」などの政治的闘争の拠点として使用し、学内において投石等により教育研究施設を破壊するなどしていた事案である。これはむしろ、暴力団等が占拠している事案に近い。
これに対し本件債務者らは平穏に通常の勉学にいそしんでいる学生であり、寮の使用状況も秩序だって生活に使用しているだけであり、寮の秩序は完全に維持されている。
東京工大事件においては、明渡建物が解体できないことから学生および教職員が崖の上に二枚の板を渡した狭い桟橋状の通路を利用していて危険であり、危険の除去のためには一日も早く建物を解体する必要があるとされている。これに対し本件では、駒場寮の存在によって積極的に何らかの通行の危険や不便がもたらされているという事情はいっさい存在しない。
詳細は不明であるが、寮居住者がバリケードで寮を封鎖した上、地元住民との間で暴力事案などのトラブルが続発するようになり、たび重なる迷惑に耐えかねた地元では、学寮移転を要求する住民集会及び署名運動が組織され、国会に請願が提出されるまでになった事案である。これも、大学に対する社会的信頼を損なう利用状況があり、暴力団の占拠事案に近い。これに対し本件債務者らは平穏に通常の勉学にいそしんでいる学生であり、寮の使用状況も秩序だって生活に使用しているだけであり、寮の秩序は完全に維持されている。本件においては、電気の停止や取り壊し強行などの人道にもとる社会的に恥ずべき行為は、もっぱら大学当局の側がしているだけであり、大学当局が誠意をもって協議をしようとする限り、適正な管理に何の支障もない。
東京外語大の事案では、寮全体のうち不要部分のみの取り壊しが問題となっており、入寮許可を受けた寮生の居住権の確保を当然の前提として、学外者などを排除しようとした事案である。寮生は、取り壊しをされない部分に居住することが可能とされ、従前どおり勉学、生活を続けていくことが可能で経済的負担が増加することもないとされている(甲五四・九〇一の三の三〇頁)。
これに対し本件では、寮そのものがさしたる差し迫った必要性も乏しいのにもかかわらず全面的に取り壊されようとしており、寮生に対する代替措置もとられていない
東京外語大学の事案においては、耐久度調査において、寮の建物自体が危険建造物であるとの認定を受けているが、本件建物はいずれも将来数十年にわたって使用可能な堅固な建物である。
入寮問題をめぐり大学と学生との間に紛争が起こり、この解決策として大学が「入寮募集停止措置」をとった。本件では、入寮募集方法の問題にとどまらず、学生の利益を根底から犯す廃寮が問題となっているのであり、大学当局が一方的に廃寮を強行する権限はないものと言わなければならない。
大阪大学の学生の身分を有しない者を含む者が、寮の出入口にバリケードを築くなどし、学生らが寮の畳を寮外に持ち出したり、寮内にある物品保管部屋の鍵を破壊して内部を荒らし、深夜ガードマンが駐在する部屋の窓に石やビール瓶を投げつけ、花火を投げ入れる等の非行を繰り返していた。
これに対し本件では、寮の秩序はまったく平穏に保たれていること前述の通りである。
なお、大阪大学事案については、二人部屋から個室に改造整備する計画を遂行する必要性、つまり施設「改善」が保全の必要性として否定されている。本件では、キャンパスプラザなる厚生施設「改善」のみが保全の必要性として主張されているのであるから、大阪大学事案との対比でみるときは、このような施設「改善」の目的をもって、現実に生活している寮生の居住権を奪うことは正当化し得ないことは明らかである。
また、大阪大学事案においては、早期に入寮募集、選考を行うことが必要であるとされ、寮の秩序の混乱した状況では入寮募集が再開できないことが、保全の必要性として重視されている。
本件では、東大当局は駒場寮を廃寮しようとしているので、「入寮希望者」の利益を考慮する必要性はまったくない。