疎甲第五三号証
平成九年一月三一日
東京地方裁判所 御中
東京大学教養学部長 市村宗武(印)
一 以下のとおり、教養学部としては、まず、旧駒場学寮を廃寮し債務者らから本件建物の明け渡しを受け、その後に、三鷹国際学生宿舎及びキャンパスプラザ建設のための予算措置を講じる、という手法を執ることが困難であった事情について、ご説明申し上げます。
1 そもそも大学の学寮は、経済的に就学が困難な学生に対し、低廉な費用負担で宿舎を提供することを目的とする施設であります。したがって、教養学部に在籍する学生の寄宿舎が存在しないという事態が一時期でも生じることは避けねばなりません。また、いくら将来において新学寮が建設される計画が存在していても、その完成に先だって既存の学寮を廃止するという計画について、学生や教職員の理解を得るのは困難です。
他方、厳しい国家財政のなかで、一方的に厚生施設を増加させる措置はなかなか認められがたい状況にあります。したがって、旧駒場学寮を将来において廃止するという条件なしに、ただ三鷹国際学生宿舎の建設を計画しても、それに対して予算措置が講じられる可能性はほとんどありません。しかし、留学生の増加や学生のプライバシー意識の変化から、個室を前提とする大規模な新学寮の建設は、教養学部にとって急務でありました。
この両者の要請を満たすためには、旧駒場学寮を廃止するという条件の下に、まず三鷹国際学生宿舎を建設し、それが旧駒場学寮の代替施設としての機能を果たしうるようになってから、しかる後に旧駒場学寮を廃寮するという順序ならざるをえなかったわけです。
2 また、旧駒場学寮が果たしてきたもう一つの大きな役割として、学生サークルの活動場所を提供する、というものがありました。この役割にも、空白期間が生じることは望ましくありません。新しい学生サークル施設が建設される目途のないまま、従前の活動場所が使用不能となるような計画では、これまた学生や教職員の理解を得ることは困難です。
他方、旧駒場学寮が提供できていた学生サークルの活動場所は、現在、駒場キャンパスにある多数の学生サークルの需要を満たすのに十分ではありませんでした。学生サークル施設の増設も、教養学部にとってまた急務だったのです。しかし、旧駒場学寮の廃寮後に新しいサークル棟についての予算措置を執っていては、厳しい国家財政のなか、学生サークルにいつになったらきちんとした活動場所を供与できるか、予想がつかず、プレハブの仮サークル棟で長い間不便を強いることになりかねません。
この両者の要請を満たすためには、旧駒場学寮を廃寮とし、居住学生を完全に退去させてから、新しいサークル施設であるキャンパスプラザについて、その整備予算措置を要求するという手順をとることはできなかったのです。
二 以上のとおりでありますので、裁判所におかれましても、事情をご賢察のうえ、ご理解を賜わりたいと存じます。
以上