疎甲第五二号証

平成九年一月三一日

陳述書2

東京地方裁判所 御中

東京大学教養学部教授 永野三郎(印)

 以下のとおり、キャンパス・プラザ建設が公益性の極めて高いものであり、東京大学の一般学生にとっても重要であること、および、旧駒場学寮が廃寮されることを新入学生にも周知徹底してきたこと、を陳述させていただきます。

 一 キャンパス・プラザ建設の公益性
 1 受験戦争によって高学歴でありながら人格が未熟な成年が生み出される、という教育批判がよくなされますが、大学生、とくに駒場キャンパスに在学する一、二年生の教育を担当しております私も、このことは痛感しております。しかし、講義や演習という直接の教育活動によってのみでは、この問題は解消されません。他者との出会い、集団のなかでの責任のある行動などを通じて、受験期に孤立しがちであった学生が、いわば社会化されていくことが必要です。そして、このために非常に重要な役割を果たしているのが、大学でのクラスや学生サークルです。したがって、クラスや学生サークルの活動を支援することは、教育機関である東京大学にとって、ゆるがせにできないものです。
 2 ところが、駒場キャンパスの現状は、この機能を十分に果たしうるものではありませんでした。
 (1)現在、駒場キャンパスには約三○○の学生サークルがあります。しかし、そのうち半数近くは、活動拠点となる部室を有しておりません。
 そこで、大規模な新サークル棟の建設が重要になります。これがキャンパス・プラザなのです。キャンパス・プラザの建設によって、約八○のサークルが新たに部室をもてることになります。
(2)各クラスには、活動場所はありません。たとえば、クラスで討論をしようということになると、授業後の教室にとどまるか、あるいは、教室の利用許可を求めることになります。しかし、学生数・授業数の増加している現在では、教室の利用はだんだんと困難になっています。
 そこで、授業には利用されない、学生のための部屋の確保が必要となります。キャンパス・プラザにおいては、共通利用室をいくつか設け、このようなクラス活動にも利用できるようにしています。そして、この共通利用室は、部室のもてないサークルにとっても、重要な活動場所を提供することになります。
(3)音楽系のサークルの練習のためには、本来、防音設備のある部室が必要になります。ところが、従来、防音設備を施した部屋は四室しかなく、練習場所の確保は難しい状況にありました。そして、それらサークルはしかたなく屋外等で練習をしておりましたが、これに対して、近隣から「うるさい」との苦情がしばしば寄せられていました。
 そこで、キャンパス・プラザにおいては、防音設備を施した部屋を確保し、これら音楽系サークルの活動場所を確保しようとしています。これらは、練習のためだけでなく、近隣の静謐な環境の維持、また教育・研究環境の維持のためにも必要なことなのです。
 3 以上のように、キャンパス・プラザの一刻も早い建設は、一般学生の利益になるものであり、人格教育という公益のためにも、きわめて重要なことなのです。

 三 新入学生への周知徹底
 1 旧駒場学寮の廃寮計画を在学生に対して繰り返し説明してきたことは、申立書や平成八年一二月に東京地方裁判所に対して提出させていただいた私の陳述書でも、ご説明申し上げたとおりです。これに加え、東京大学は、新入生が入学後、旧駒場学寮に入寮する可能性があることから、同様に、廃寮計画の周知徹底を図ってきました。
 2 まず、平成四年四月の入学式では、当日、「三鷹国際学生宿舎(仮称)建設計画について」と題するパンフレット(末尾添付資料1)を配付いたしました。ここには三鷹国際学生宿舎の建設に伴い、旧駒場学寮は廃寮される計画であることが明記され、また、キャンパス・プラザ計画についても説明しております。
 平成五年度入学生に対しても同様のパンフレット(末尾添付資料2)を配付いたしましたが、今度は入学手続書類に同封して配付いたしました。したがって、入学式前の三月の段階で配付がなされたわけです。これは、入学手続時に、旧駒場学寮への入寮申込をする新入生もいることに鑑みた措置です。
 平成六年度入学生に対しても、入学手続書類に同封したパンフレット(末尾添付資料3)において説明を行いましたが、このときは、平成七年四月の段階で旧駒場学寮への入寮募集を停止し、平成八年四月に旧駒場学寮を廃寮することが明記されました。
 平成七年度入学生に対しては、同様に、入学手続書類に同封したパンフレット(末尾添付資料4)において説明を行いましたが、このときは、平成七年四月の段階で旧駒場学寮への入寮募集を停止し、平成八年四月に旧駒場学寮を廃寮することを明記し、さらにキャンパス・プラザを含む駒場キャンパスの再開発計画(「CCCL駒場」)、および、旧駒場学寮の廃寮に至った経緯などを詳しく説明いたしました。
 3 また、平成六年度の入学者募集からは、そもそもその募集要項(末尾添付資料5)において、旧駒場学寮の廃寮計画を説明し、さらに、平成七年度入学者募集要項(末尾添付資料6)には、「駒場寮は、平成7年度からは入寮募集は行わない」と明記いたしました。
 4 このように、債務者らは、旧駒場学寮の廃寮予定を十分に承知して入寮してきたものといえますし、東京大学および教養学部として、学生に不測の損害が生じることを注意深く回避してきたといえると考えております。

                               以上

添付資料

1「三鷹国際学生宿舎(仮称)建設計画について」(1992/04/12)
2「三鷹国際学生宿舎(仮称)建設計画について」(1993/03)
3−1入学手続書類封筒「新入生諸君へ」
3−2「三鷹国際学生宿舎建設計画および駒場寮跡地利用計画について」(1994/03)
4−1入学手続書類封筒「新入生の皆さんへ」
4−2「新入生の皆さんへ 三鷹国際学生宿舎の建設と駒場寮跡地利用に関わる「CCCL駒場」計画について」(1995/03)
5『平成6年度 東京大学入学者募集要項』
6『平成7年度 東京大学入学者募集要項』