平成九年一月三一日

陳述書

東京地方裁判所 御中

東京大学教養学部教授 生井澤 寛(印)

  1. 私は、一九七一年、東京大学教養学部に助手として赴任し、同学部助教授を経て、一九九五年四月から教授として勤務しております。私の専攻分野は、物理学、その中でも物性理論でありまして、電気の理論はその一分野になります。そこで、専門家の立場から、債務者らの行っている盗電行為が、いかに危険かをご説明申し上げます。
     債務者らの盗電行為は、三つの電源からなされています。一つは、旧寮食堂の分電盤から、二つは、プレハブの仮サークル棟の一階から、三つは、ロッカールームの分電盤からです。
  2. 1 まず、旧食堂の分電盤からの盗電ですが、これは私自身が現認したところ、定格容量一三九アンペアのケーブル一回線、八八アンペアのケーブル三回線、二七アンペアのケーブル一回線を、厨房の分電盤から天井の明かり取りの窓を通して屋根を伝わせ、旧北寮建物の二階に渡すことによって行われています。そして、これらのケーブルは、旧北寮建物一階の一○Sという部屋に引き込まれ、そこで分流器により、旧北寮建物と旧中寮建物の分電盤に分配されています。
     2 ところが、この方法はきわめて危険です。
     まず、使用電流が大量であると、盗電に用いているケーブルの定格容量を超える可能性があり、その場合、そのケーブルは熱を発生して、火災を引き起こすこともあります。そして、旧北寮建物と旧中寮建物は居住者も多く、とりわけ旧北寮建物には印刷機・複写機などの電気機器が集中しているので、電力使用量も大量に及ぶものと考えられます。
     次に、各ケーブルは固定されていないだけでなく、屋外の部分が多く、風雨の影響や、ネズミ・鳥などによって被覆に損傷が加えられるおそれがあります。そのときは、大電流が漏電し、とくに雨天時などには感電のおそれがあります。
     さらに、旧北寮建物一○Sの分流器には大電流(数十から百アンペア)が流れ込む可能性がありますが、分流器自体がむき出しのままになっており、これに人が触れますと、感電し、死に至る可能性もあります。
  3. 1 プレハブの仮サークル棟からの盗電は、コードリールを複数継ぎ足して、地面あるいは旧駒場学寮の渡り廊下部分を野ざらしの状態ではわせ、旧明寮建物および旧北寮建物に配電しています。
    2 しかし、このような方法では、自動車や人の通行により、コードの被覆に損傷が生じる可能性が高く、そうなりますと漏電の危険があります。とくに雨天時には、感電死の危険すらあります。
     また、被覆の損傷までにいたらなくても、リールがむき出しで放置されていますから、雨天時などにその差込部分に触れれば、やはり感電のおそれがあります。

四  ロッカールームからの分電盤からの盗電も右と同じように危険な状態でなされています。また、この分電盤は、ロッカールームの照明および近くの街灯に電源を供給するためのものですが、盗電によってブレーカーが落ちて、夜間、照明と街灯が消えるという事態が再三発生しています。これは、防犯上からも危険なことです。

五  また、平成八年一一月二三日には、廃寮以前、旧駒場寮建物に電源を供給していた電気設備(Q2キュービクル)に異常電圧が発生していたことは、申立書に記載のとおりです。これは、Q3キュービクルから旧駒場学寮内の配電盤に電力が供給されるという設計なっておりますのに、他所から配電盤に電力を供給したため、供給された電力がQ3キュービクルに逆流した結果です。トランス端子には五○○○ボルトを超える電圧が発生しており、こうなりますと、内部で作業する者が感電死するおそれがあります。
 その後、教養学部は、逆流を防止する措置を講じましたが、非常に危険な状態にあったことは申し述べておきたいと存じます。

                             以上