実名はふせてあります(編者)。


疎甲第四四号証

陳述書1

東京大学教養学部等学生課長 右松鉄人

 以下の通り、陳述させていただきます。

 一 陳述者の地位、略歴
 私は、中央大学第二法学部を卒業後、昭和四○年から国家公務員として勤務を始め、東京大学宇宙航空研究所、高エネルギー物理学研究所、岡山大学、東北大学、筑波大学での勤務を経て、平成七年四月より当職にあります。
 旧駒場学寮は、東京大学教養学部の管理する学寮であり、学寮の管理は学生課の担当になっておりますので、当職に就任以来、事務上の直接の責任者として、旧駒場学寮をめぐる問題に携わってきました。
 なお、旧駒場学寮は、東京大学長が、東京大学教養学部に在籍する学生のための学寮としたもので、駒場学寮に入寮を希望する学生は、同寮の自治会の選考を経た上、教養学部長の許可の下に入寮し、月額四○○円の使用料を支払っていました。

 二 本件紛争の経緯
 東京大学の管理する国有財産で教養学部がその実際の管理事務を行っておりますものに関して、三鷹学寮の敷地が効率的に使用されていないこと、および、駒場学寮が老朽化しその維持管理が困難になっていることが、従来からとくに問題になっておりました。そこで、東京大学教養学部といたしましては、三鷹学寮の敷地に従来、駒場学寮と三鷹学寮に入居していた学生数をあわせて居住させることができる大規模な新学生宿舎を建設し、三鷹学寮敷地の有効利用を図り、また、駒場学寮を廃寮にし、老朽化した建物に変わる新たな建物を建設する計画を作りました。それが、「三鷹国際学生宿舎(仮称)建設について」というものです。平成三年一○月九日の東京大学教養学部臨時教授会で正式に決定されました(甲四として、同日の「教授会議事抄録」が提出されていますが、これは東京大学教養学部総務課が作成し、学部長・評議員のチェックを経ている文書です)。その発議を受けて、平成三年一○月一五日に東京大学評議会は、「三鷹国際学生宿舎(仮称)建設について」という基本方針を正式に承認しました。疎明資料として提出しております平成三年一○月一五日付けの「評議会議事要旨」(甲五)に、その決定が記載されております(なお、この「評議会議事要旨」は、東京大学総務部が作成し、総長および評議会の承認を得ている文書です)。
 「三鷹国際学生宿舎(仮称)建設について」にあるように、この基本計画においては、三鷹国際学生宿舎(仮称)の建設が進行し、駒場学寮と三鷹学寮の双方の代替施設としての機能を有するに至れば、駒場学寮が廃寮されることが明らかにされています。すなわち、平成八年三月三一日をもって駒場学寮建物の用途廃止がなされたのは、この評議会決定に基づいているものです。
 より詳しく説明します。
 東京大学では、駒場学寮の廃寮は、東京大学長に決定権限があります。これは、次のような根拠に基づいています。
 まず、旧駒場学寮建物は文部省所管の行政財産(公用財産)であり(国有財産法三条二項一号)、東京大学長は、国有財産法九条一項および文部省所轄国有財産取扱規程五条に基づき、文部大臣が同法五条に従って有する本件建物の管理権を分掌しています。東京大学長は、この管理権を行使するにあたり、文部省所管国有財産取扱規程六条および東京大学所属国有財産取扱規程四条に基づき、東京大学教養学部長を補助執行者に指定しています(東京大学所属国有財産取扱規程別表、甲三)。この補助執行者の補助執行権限によって、教養学部長は駒場学寮を含む、管理の委ねられている建物の日常的管理を行っていますが、その中に含まれる将来計画の立案・発議等は重要事項ですから、教授会の審議を経て決定します。これが平成三年一○月九日の東京大学教養学部臨時教授会の決定です。平成三年一○月一五日付の「評議会記事要旨」(甲五)をご覧になればおわかりのように、東京大学長(「評議会記事要旨」では「総長」と記述されています)が、東京大学教養学部長の発議を受けて、学長の諮問機関である東京大学評議会(国立大学の評議会に関する暫定措置を定める規則六条)に、駒場学寮廃寮を諮問し、評議会が審議・承認するかたちになっています。これは、東京大学が重要事項を審議決定する一連の過程において、東京大学長からの諮問に応じて、評議会の承認に基づき東京大学長が決定したことを意味します。そこで、平成三年一○月一五日の東京大学評議会の承認をもって、三鷹国際学生宿舎(仮称)の建設が進行し、駒場学寮と三鷹学寮の双方の代替施設としての機能を有するに至れば、駒場学寮が廃寮されることが正式に決定されたといえるわけです。

 三 廃寮の決定とその告示
 前述の三鷹国際学生宿舎の建設は順調に進み、平成七年四月の段階で計六○五室の学生居室が整備されることになり、従来の三鷹学寮と駒場学寮に実際に入居していた学生数を上回ることになりました。すなわち、従来の二つの寮の機能をあわせ有する規模に達したわけです。そこで、東京大学教養学部は、平成七年四月から駒場学寮への新規入寮者募集を中止し、さらに平成七年九月二一日の教養学部教授会において、駒場学寮廃寮を平成八年三月三一日をもって行うことを東京大学長に発議することを決定いたしました(疎明資料として、同日の「拡大教授会及び教授会議事要旨」(甲六)を提出していますが、これは東京大学教養学部総務課が作成し、学部長・評議員のチェックを経ている正式な文書です。提出された文書には「(案)」と記載されていますが、原案通り承認されたため新たな文書を作成しておりません)。教養学部の発議を受けて、平成七年一○月一七日の東京大学評議会において、平成八年三月三一日をもって行う廃寮が審議され、それが了承されました(疎明資料として提出しております同日付の「評議会記事要旨」(甲七)に、そのことが記載されております。なお、この「評議会記事要旨」は、東京大学総務部が作成し、総長の承認を得ている正式な文書です)。この評議会承認によって、東京大学長による、駒場学寮の平成八年三月三一日をもっての廃寮が正式に決まったのです。そして、同日、駒場学寮廃寮が学生に対して告示されたわけです(疎明資料として提出しています学内広報一○三七号(甲一四)に、その告示の様子が掲載されています)。そのときの文書は疎明資料(甲一三)として提出されておりますが、同日、東京大学教養学部の掲示板に掲示されたものです。掲示板に掲示されていることを示す写真(写真1)を添付いたします。
 将来の廃寮は平成三年段階で決定していたわけですが、具体的な廃寮時期は、この時点で正式に決定したことになります。
 平成八年三月三一日をもって駒場学寮を廃寮することについては、その後も学生に対して通告しております。平成八年三月一三日には、東京大学教養学部長名で「駒場学寮廃寮による在寮期間について」(甲一五)の文書を学生本人に郵送いたしました。また、平成八年四月一日には、その前日まで駒場寮委員会を教養学部に対して代表する交渉代表であった……君に対して廃寮を通告する文書を手渡しました。疎明資料として提出されている東京大学教養学部長名による文書(甲一六)が、それです。また、同日、廃寮を通告し、今後、旧駒場学寮建物への立ち入りを禁止する文書(甲一七)を、東京大学教養学部の掲示板に掲示し、全学生に注意を促しました。掲示板に掲示されていることを示す写真(写真2)を添付いたします。
 さらに、平成八年四月五日には、東京大学教養学部長名の退去命令(甲二○)を東京大学教養学部の掲示板に掲示するとともに、可能な限り、旧駒場学寮建物の個々の居住者または居室に配付しました。
 なお、以上の経緯に関しては、疎明資料として提出いたしました「年表・三鷹国際学生宿舎建設及び駒場寮廃寮問題の経緯」(甲九)にも記されています。この年表は、大学側と学生側とで、この紛争をめぐって話し合うための共通の土台を作成するために、大学側代表(小林寛道教授(東京大学教養学部))と学生側代表(……さん(東京大学教養学部学生自治会委員長(当時)))とが共同で作成し、合意に至ったものです。

 四 債務者らの不法占拠とそれによる不利益
 ところが、債務者らは、平成八年四月一日以降も同建物から退去せず、それどころか大学側の同建物への立ち入りを拒み、独自に新規入居学生を募集し、さらには学外者にも同建物への居住を認めるなどしています。そして、このことは、大学の正常な管理・運営を著しく困難にし、また、重大な危険も生じさせています。
 具体的には以下に述べるとおりです。
 1 平成八年四月一日以降、東京大学教養学部は、同建物の状況を調査するために、たびたび教官団が同建物内に立ち入ることをしていますが、多くの場合、同建物を占有している学生たちおよび学外者の共同によって立ち入りそのものを阻止され、うまく立ち入れた場合でも早々に退去させられるという事態になっています。
 多くの場合、立ち入りの阻止は債務者らの人垣によって行われています。教官団が集合場所である101号館を出発するのを察知し、いち早く同建物前に集まって、駒場学寮に近づくこと自体を阻止しようとする場合もしばしばですが、一般には、教官団が或る建物に近づくと、寮内放送によって、そのとき旧明寮、旧北寮、旧中寮のいずれかの建物内にいる居住者全員に、当該建物前への集合が促され、全員で教官団の立ち入りを阻止するわけです(写真三、四をご覧ください)(そして、立ち入りに成功するときとは、多くの場合、一部の教官がこの人垣をひきつけ、別の入り口から他の教官が立ち入ったという場合なのです)。たとえば(以下、添付いたしました旧駒場学寮建物の平面図を参照してください)、旧中寮建物前に看板によって(写真5をご覧ください)、旧北寮建物前にはテーブルと看板によって、それぞれバリケードが築かれたこともしばしばあります(写真6、7をご覧ください)。
 寮内放送を使って現状把握を困難にする実際例は、平成八年九月一○日に執行されました同建物に関する占有移転禁止の仮処分の際にもありました。執行調書には、駒場寮「委員会は在寮生らに対し『一切の協力、質問には答えないように』との場内アナウンスをなし」た、との記載があります(甲一八)。
 さらに、うまく立ち入ることができた際に、利用状況を調査しようにも、債務者らの手によって施錠がなされ、内部の様子をうかがうことのできない部屋も増えています。それでも、明らかに空室と確認できた場合には、大学側で施錠を行っているのですが、それもすぐに破壊され、独自の施錠がなされている有様です。具体的にどの部屋の鍵が壊されたかを全部把握することはできていません。うまく立ち入ることができてもすぐに排除されるわけですから、施錠もかなり急いで行っています。しかしながら、確認できたものだけでも、旧明寮建物内一三S、一六S、旧北寮建物内一八S、二四S、二八B、二八S、旧中寮建物内三B、三S、一一B、一七B、以上八カ所についての大学側による施錠は債務者らによって破壊または解錠され、持ち去られています。
 2 平成八年三月三一日の廃寮以降も、旧寮生たちは「駒場寮自治会」と称し、独自に新規入寮生を募集し続けています(甲四一、四一−一、四一−二)。そして、その違法な新規入寮者について、旧寮生たちは名前を明らかにしておりません。現在でも新規入寮募集を継続していることを示す写真をあわせて添付いたします(写真8)。
 また、「駒場寮自治会」は、本件建物の各部屋につき、クラスルーム、「駒場祭」準備(「駒場祭」とは、いわゆる学園祭のことです)、自習室、さらには仮宿泊といった名目で、他の学生にも利用を勧めています(甲二一、二二、二三、二四。写真9)。これらの利用者の数、名称等も、東京大学教養学部には一切不明の状況です。
 とりわけ学外者の居住は、大学としても憂慮すべき事態です。東京大学教養学部は、とくに「学外者退去の命令」(疎明資料(甲二○−一)として提出されておりますが、これは名宛人たる……君によって受け取りを拒否されましたので、五月八日、同様の文書を山内君宛に郵送いたしました)を出し、旧駒場学寮建物内にとどまっている学生に対しても注意を促しました(写真10、11をご覧ください。これは、学部長室のある一○一号館前に債務者らが集合して、抗議行動をした際の写真ですが、そこに、京都大学の学寮である「吉田寮」という旗が写っています)、これら学外者の利用状況についても、大学側は十分に把握できない状態にあります。また、件建物内には、都寮連(「東京都大学寮連合会」の略称と思われます)、全寮連(「全国大学寮連合会」の略称と思われます)という名称の団体の事務局の存在も確認されていますが、これらの団体も東京大学の施設を利用する権限を有しません。しかるに、これら学外者の利用・宿泊についても、「駒場寮自治会」は、自らの権限の範囲内のことであると主張しています(甲二五)。
 3 管理不能状態によって引き起こされている危険として最も重大なのは、火災の危険です。
 本件建物は従来から乱雑に使われており、とくに裏口、廊下等には可燃物がたくさん置かれています(写真12、21)。実際、平成八年四月三日午前一時ごろ、旧中寮建物裏のゴミ山から出火し、これは消し止められたものの、その後に旧北寮屋上出口踊り場にも不審火の跡が見つかりました。さらに、二日後の同月五日朝五時三○分ころにも、本件建物のうち旧中寮とよばれる建物の東側出口付近のゴミから出火し、旧中寮建物一階廊下の東部分の天井が焼けこげる、同建物の屋内配管皮膜が焼ける、同建物の非常用誘導灯が焼ける、といった火災が発生しました(甲二八−一、二八−二)。
 また、本件建物については、再三の警告の後、平成八年四月八日より電気およびガスの供給が停止されていますが、旧駒場学寮建物内にとどまっている学生らは、近くの建物からコードによって盗電しています。東京大学教養学部長によって再三の注意がなされ、また、コードリールを回収したこともあったのですが、現在でもそれは継続されています。最近では、旧駒場学寮建物の裏手にある旧寮食堂厨房の配電盤からとり(写真13、14)、屋根裏を通し(写真15、16)、外部へ出し、地面にコードをはわせ本件各建物に分配し(写真17、18)、各部屋等に入れています(写真19、20、21)。これはそれ自体が当然に違法行為であり、大学の敷地内でこのような違法行為が行われている状態を継続していることは大学の正常な管理・運営を大きく妨げるものですし、いつ漏電事故が起きてもおかしくない極めて危険なものです。
 さらに、旧駒場学寮建物内にとどまっている学生らは、プロパンガス設備を無断で本件建物に持ち込み(写真22、23、24)、加えて、石油ストーブを共同購入し、貸与する計画も立てています(写真25、26)。前述のように可燃物の多い状態に鑑みるならば、火災等の危険性は極めて高く、本件建物の保安上の見地から、一時も放置することができない状態にあります。
 4 さらに治安上の問題もあります。これは大きく二つに分けることができます。
 (一)まず、学生間の問題です。永野三郎教授の陳述書に詳しく述べられるはずですが、廃寮は、東京大学の敷地を有効利用するためのものであり、本件建物の跡地には学生のサークルのための建物(「キャンパス・プラザ」と呼んでいます)等が建設される予定になっています。そこで、この「キャンパス・プラザ」の早期実現に向けて、学生として、本件建物を取り壊すことに積極的に協力すべきである、との立場を示し、その方向での運動を展開している学生も存在します。そして、こういった学生と、本件建物の存続を主張する学生は対立し、学内で暴力事件も生じています。最近でも、平成八年一○月三一日午後四時頃、「キャンパス・プラザ」建設の推進を主張する一学生が、本件建物に居住し、廃寮反対を主張する一学生に暴行を受けるという事件が発生しました。学生課において被害者から事情を聞きましたが、そのメモを添付いたします(甲二九。プライバシーの保護のため、また、報復などのおそれがあるため、一部を抹消しております)。
 (二)次に、対大学、対教職員、さらには対第三者の問題です。大きな事件としては、まず、実際の廃寮に先立つ平成八年一月一八日に行われた仮サークル棟建設の入札説明会の妨害行為があげられます。仮サークル棟とは、駒場学寮廃寮後、キャンパス・プラザ建設までの間、一時的に不足するサークル活動スペースを確保するために賃貸借契約によって調達するプレハブ棟のことです。入札説明会は同日午後二時より開始の予定でしたが、午後一時五○分頃、会場に一七名の学生が、「駒場学寮廃寮を前提とする行動を阻止する」という名目で乱入し、室内においてハンドスピーカーで大音量を発し、説明会の開催という公務を妨害したのです。乱入した一七名の多くは、当時、駒場学寮に居住していた学生であり、債務者らのうち、少なくとも、……(5名実名:編注)はこれに参加していました。黒のヘルメットを被りタオルでマスクをした者が四名、帽子を被りタオルでマスクをし、サングラスをかけた者が一名含まれていました。そして、彼らは、入札関係の書類の開示を要求し、女性を含む担当事務官四名を一時間以上にわたって駒場キャンパス一○二号館の説明会場の部屋に監禁したのです。さらに、入札説明会に参加しようとした学外の建設関係者にも、「落札しても大変なことになるだけだ」と威嚇し、当日の入札説明会を流会とさせたのです(甲三○−一、三○−二、三○−三。甲三○−二文書が掲示板に掲示されていることを示す写真(写真27)を添付いたします)。また、平成八年六月一四日には、教養学部学生約二○名と学外者約四○名の計約六○名が、教養学部長室のある一○一号館に乱入しようとし、同館の入口前で教職員と激しくもみ合い、翌朝二時半過ぎまで教職員を釘付けにしました。先頭に立って応対していた永野三郎教授(教養学部評議員)は、この途中に倒れ、救急車で入院するに至りました(甲三一。この文書は、平成八年六月一七日に正門前等で学生に対して配付されたものです)。
 さらに、平成八年九月一九日には、債務者のうち、……(実名6人:編注)を含む学生一五名が、教養学部教授会の開始直前に、一○二号館教授会室に乱入し、教授会での発言を求め、居座りました。そして、事態を収拾するために、彼らに、一○分を区切って教授会開始前に発言を認めざるを得なかったのです。
 5 このような異常な事態が、仮に平成九年三月一○日(入学試験合格者発表の予定日)以降にも継続することになると、さらに複雑な様相を呈します。本件建物を不法に占拠する学生たちのいままでの行動から推して、彼らが平成九年四月に入学する学生に対しても、違法な入寮を勧誘することは明らかです。新入生は先輩等を通じて一方的な情報を与えられるおそれが多くありますから、違法性について深い認識のない新入生が多く本件建物に居住を開始する可能性があり、そうなると、ますます管理は困難になり、さらには法的手段を執ることすら著しく困難になります。また、本件建物を不法に占拠する学生たちの人数が飛躍的に増加し、違法行為、暴力行為が激化する可能性も高いと思います。何よりも、状況認識を欠いた新入生を、現在の紛争に巻き込むことになるのは、まことに忍びありません。一刻も早く解消することが必要だと考えています。
 6 予算関係については、経理関係職員からの報告書に詳しく説明されることと存じますが、本件建物の取り壊しが遅れることによって、キャンパス・プラザの建設ができないという事態になりますと、いま現在、一部の学生だけによって引き起こされている紛争・行動が、サークルの活動スペースに支障を来した多くの学生によって再び行われる事態となることをおそれます。東京大学教養学部が将来においても正常に運営されるためには、本件建物の明け渡しに時間がかかるようでは困る、将来における取り壊しでは、また別の学生紛争を引き起こすことになる、という点は、当職の立場からとくに強調しておきたいと思います。

 五 債務者に生じうる損害の軽減措置について
 最後に、本件建物を不法に占有する学生たちが、本件建物より退出することになっても、彼らに生じる損害は、ほとんどないことを説明いたします。
 1 旧駒場学寮と旧三鷹学寮とを統合するものとして、三鷹国際学生宿舎が建設されたことは既に説明しましたが、すでに平成七年一○月一七日の段階で、その当時、駒場学寮に正規に入寮している学生には三鷹国際学生宿舎への優先入居を認める措置を講じました(甲三六)。実際、この優先入居制度によって、駒場学寮から三鷹国際学生宿舎へと転居した学生は、計四一名になります。この優先入居制度は一応は終了しているのですが、実際には三鷹国際学生宿舎に相当数の空室を確保したままにしており、現在でも本件建物に不法に居住している学生に対して、三鷹国際学生宿舎への入居が可能になるようにしています。実際、平成八年九月以降も。本件建物に不法に居住していたが、もはや居住をやめたいとの相談に来た学生に、三鷹国際学生宿舎への入居斡旋を行いました。
 2 また、三鷹国際学生宿舎の居住にかかる費用は宿舎費月額三三○○円と水光熱費二五○○円、共益費二○○○円、自治会費五○○円であり(甲三八)、通学費(吉祥寺〜駒場東大前の一ヶ月通学定期代、二四六○円)とあわせても一○○○○円程度です。市価に比べて格段に低廉ですので、そこへの転居によって学生らに不当な損害が生じるとはいえないと思います。さらに、右の費用と旧駒場学寮の必要経費月額五○○○円(宿舎費四○○円、経常費(自治会費+水光熱費)四六○○円)との差額の負担が経済的に困難な学生に対しては、日本育英会などの公的奨学金とは別に、教官の拠出による「駒場国際交流奨学金」が用意されています(甲三九−一、三九−二)。これは経済的困窮者に月々一万円を貸与するものでして、平成八年一○月現在で計五名の学生が貸与を受けています。ことさらに重視すべき損害はないと考えられます。
 3 旧駒場学寮建物を利用していたサークルに対しても、プレハブによる仮サークル棟二棟を建設し、スペースを確保しています(甲四○。写真28、29。末尾に添付しました平面図をご参照ください)。多くのサークルはすでに仮サークル棟への移転を終えていますが、未だ空室があり、したがって、現時点で旧駒場学寮建物を利用しているサークルもすべてが仮サークル棟へ移転することが可能です。つまり、本件建物を不法に占拠する学生たちが、本件建物より退出し、本件建物が取り壊されるに至ったとき、サークル活動にも何ら支障を来さないということができます。
 なお、以上と重複いたしますが、一連の経過を資料付きでまとめたものとして、学内広報一○七一号があります。疎明資料(甲四三)として添付いたしておりますので、あわせてご参照ください。

                            以上

添付資料
仮サークル棟の位置を示す構内地図
添付写真の撮影箇所を示す構内地図(2点)
添付写真の撮影箇所を示すプレハブ平面図(3点)
写真1 正門前掲示板に掲示された廃寮告示(1995/10/17)
写真2 正門前掲示板に掲示された廃寮告示(1996/04/03)
写真3 北寮前の教官団(1996/07/16)
写真4 北寮前の教官団(1996/07/16)
写真5 北寮前の看板(1996/07/16)
写真6 北寮前の教官団(1996/07/16)
写真7 北寮前の教官団(1996/07/16)
写真8 北寮に掲げられた新入寮生募集中の横断幕(1996/11/14)
写真9 北寮前の看板(寮祭・自習室・クラスルーム)(1996/11/14)
写真10 一○一号館前での抗議行動(1996/04/24)
写真11 一○一号館前での抗議行動(1996/04/24)
写真12 明寮二階廊下(1996/11/14)
写真13 寮食堂厨房配電盤(1996/11/14)
写真14 寮食堂厨房配コンセント(1996/11/14)
写真15 寮食堂厨房屋根裏(1996/11/14)
写真16 駒場小劇場への渡り廊下(1996/11/14)
写真17 北―中間渡り廊下から寮食堂方向通路(1996/11/14)
写真18 北寮裏(1996/11/14)
写真19 北寮内部(1996/11/14)
写真20 中寮炊事場(1996/11/14)
写真21 室(部屋番不詳)(1996/11/14)
写真22 中寮炊事場(1996/11/14)
写真23 中寮炊事場(1996/11/14)
写真24 中寮炊事場(1996/11/14)
写真25 中寮内、寮委員会の公示(1996/11/14)
写真26 明寮内、寮委員会の公示(1996/11/14)
写真27 正門前掲示板の掲示(1996/01/23)
写真28 プレハブ仮サークル棟(B、C棟)(1996/11/14)
写真29 プレハブ仮サークル棟(A棟)(1996/11/14)