不動産仮処分命令申立書(国、大学側)


「1997年1-2月」 | 資料集成

オリジナルは全56ページ、縦書きです。原則として漢用数字は段落などを除いて、算用数字に変換されています。(甲…)は、疎明資料の番号です。なお登場する実名は一部を除き、削除しています。


不動産仮処分命令申立書

当事者の表示            別紙当事者の目録のとおり
仮処分により保全すべき権利   建物明渡請求権
目的物の表示            別紙物件目録記載のとおり
目的物の価格            金1億9295万7536円
貼用印紙額             金7万3500円

申し立ての趣旨

債務者らは債権者に対し、別紙物件目録一ないし三記載の建物を仮に明け渡せとの決定を求める。

申立ての理由

第一 被保全権利

 一 当事者

1 当事者適格

(一)債務者駒場寮自治会
債務者東京大学駒場寄宿寮自治会(以下「駒場寮自治会」という。)は、関連規約に基づき旧駒場学寮の寮生により構成されている権利能力なき社団であり、その代表者(駒場寮委員長)は債務者山内恵太である(甲19の1(2、5丁目)、19の6(1ないし75ページ)。

(二)債務者全寮連
債務者全日本学生自治会連合(以下「債務者全寮連」という。)は、全日本学生寮自治会連合規約に基づき、学生寮自治会によって構成される権利能力なき社団であり(甲19の6(98ないし106ページ)、その代表者(中央執行委員長)は、岩原宏志である(甲46(24ないし25ページ)、19の7)。

(三)債務者都寮連
債務者東京都学生自治会連合(以下「債務者都寮連」という。)は、東京都学生寮自治会連合規約に基づき、東京都、及びその近郊の、学生寮自治会によって構成される権利能力なき社団であり(甲19の6(90ないし97ページ)、その代表者(中央執行委員長)は、杉本理である(甲46(26ページ))。

2 占有関係

(一)占有移転禁止の仮処分を受けている者
 債務者…(編注:以下20名の実名)については、債権者は別紙物件目録記載の建物の仮処分を得ているが、右債権者らは共同して本件建物を占有している(甲18(5丁目))。

(二)その他の者
 その他の者らも、本件建物に住所を有し、右債務者らと共同して本件建物を占有している(甲18(10ないし13丁)、甲46(2ないし26ページ))。

二 本件建物の所有関係

1 本件建物は、所官庁を文部省とする国有財産(行政財産)であって、債権者の所有に属する(甲1)。

2 東京大学長(「総長」とも言う。)は、国有財産法9条1項及び文部省所管国有財産取扱規定4条、5条に基づき、本件建物を管理している。なお、東京大学長は、右管理権を行使するに当たり、同規定6条及び東京大学所属国有財産取扱規定4条に基づき、東京大学教養学部長を補助執行者に指定している(甲2(790、792ページ)、甲3(981の2、981の26ページ))。

3 東京大学長は、本件建物を東京大学教養学部(以下「教養学部」という。)に在籍する学生によって構成される債務者駒場寮自治会の選考を経た学生に対し旧駒場寮への入寮を許可し、入寮した学生に対し一人400円の寄宿料と光熱費(実費)を徴収していた(甲44(2ページ))。

三 債務者らの不法占有

1 旧駒場寮の在籍資格者

 行政財産である旧駒場寮に入寮するためには、学寮の管理者である東京大学教養学部長から行政処分である入寮許可決定を受けなければならず、この入寮許可決定に基づき寮の使用が許されるのであるから、旧駒場寮に居住できる者は、東京大学学生だけであってかつ管理権を有する東京大学教養学部長の入寮許可を受けた者に限られる。また、旧駒場学寮は東京大学教養学部学生及び同大学総合文化研究科学生のための学寮であったから(甲44(2ページ)、46(29ページ))、入寮許可を受けた東京大学学生であっても他学部への進学により東京大学教養学部学生の身分を失った場合は、入寮許可を失う。

2 本件建物の用途廃止と入寮許可決定の失効

 東京大学学長は、平成7年10月17日、東京大学教養学部教授会の決定及び東京大学評議会の議を経て、旧駒場学寮を平成8年3月31日をもって廃寮することを決定し(甲6、7)、また、国有財産の措置として、平成8年4月5日、本件建物の取壊しを承諾し学寮としての用途を廃止した(甲2(文部省所管国有財産取扱いを承認し学寮としての用途廃止におより、在寮生に対する入寮許可決定は当然に効力を失う。

3 債務者らの使用権限

(一)本件建物の使用許可を受けていない者

 しかるに、債務者全寮連及び同都寮連は、その構成員が必ずしも東京大学学生に限られず、東京大学教養学部長において本件建物を使用を許可したことがないから、本件建物の使用権限を有しない(甲46(29ないし30ページ))。

 また債務者…(編注:以下24名の実名。うち「占有移転禁止の仮処分を受けている」人の以外の数、19人)は、東京大学学生であるが、旧駒場学寮の入寮を停止した平成7年4月以降に入寮した者であり、東京大学教養学部長の入寮許可決定を受けていないから、本件建物の使用権限を有しない(甲35の2・3・6ないし8・10・11・13・15ないし18・22・24ないし26・28ないし32・35・39・42、甲46(4ないし5、8ないし23、26ないし28ページ))。

 また同債務者のうち債務者…(東京大学工学部)、同…(東京大学理学部)、同…(東京大学法学部)、同…(東京大学工学部)、同…(東京大学理学部数理科学研究科)は、入寮時に東京大学教養学部学生及び同大学大学院総合文化研究科学生の身分を有していなかったので、そもそも東京大学教養学部長の入寮許可決定を受けることができなかったから、本件建物の使用権限を有しない(甲35の17・22・24・26・42、甲46(12・14・18・21・22・26、27ページ))。

(二)卒業、退学、他学部進学により使用権限を失った者

(1)債務者…(退学)、同…(卒業)及び…(退学)は、東京大学学生の身分を失っているから、本件建物の使用権限を有しない(甲19の3ないし5、甲46(6、13、14、26ページ))。

(2)債務者…(東京大学文学部)、同…(東京大学農学部)、同…(東京大学文学部)、同…(東京大学経済学部)、…(東京大学農学部)及び同…(東京大学工学部)は、教養学部あるいは大学院総合文化研究科以外への進学により、使用権限を失った(甲35の19ないし21・23・37・40・甲46(6、7、19、27ページ))。

(三)廃寮決定により使用権限を失った者

 また、右(一)及び(二)にかかわらず、債務者らのうち債務者駒場寮自治会、同都寮連及び同全寮連を除く46名は、旧駒場寮の廃寮及び本件建物の学寮としての用途廃止により、旧駒場学寮の入寮資格を失い、本件建物を使用する権限を有しない。

 債務者駒場寮自治会は、その構成員である寮生の有する本件建物の使用権限によて本件建物を使用していたものであるから、寮生のすべてが本件建物の使用権限を失うことで当然に本件建物の使用権限を失った。

4 本件建物の用途廃止の公定力

 たとえ、債務者らが、右用途廃止の効力を争い、なお本件建物の占有権限を有する旨主張したとしても、およそ右の主張は認められるものではない。

 すなわち、行政財産の用途廃止一般は、本来は、国有財産の管理者の管理処分に基づく国有財産に対する管理処分行為であるから事実行為であって、「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められている」(最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決)行政処分(行政事件訴訟法3条)とはいえないが、当該財産について占使用の許可を受けた者がおり、用途廃止決定によってこれらの者の権利・利益が消滅するに至るという法律関係が生じているときには例外的に処分性を認めうるとされる(寶金敏明「改訂里道・水路・海浜」328ページ)。ちなみに、公共用財産である里道の用途廃止について、最高裁判所昭和62年11月24日第3小法廷判決・訟務月報34巻700ページは、「本件里道が上告人に個別的・具体的な利益をもたらしていて、その用途廃止により上告人の生活に著しい支障が生じるという特段の事情」が認められないことを理由に、用途廃止処分の取消請求訴訟の原告適格を否定している。そうすると、本件廃寮のように結果的に寮生の法的地位を変動させる用途廃止は行政処分性を有すると解される。そして、「かかる行政庁の行為は、公共の福祉の維持、増進のために、法の内容を実現することを目的とし、正当の権限ある行政庁により、法に準拠してなされるもので、社会公共の福祉に極めて関係の深い事柄であるから、法律は、行政庁の右のような行為の特殊性に鑑み、一方このような行政目的を可及的速やかに達成しうる必要性と他方これによって権利、利益を侵害された者の法律上の救済を図ることの必要性とを勘案して、行政庁の右のような行為は仮りに違法なものであっても、それが正当な機関により取り消されるまでは、一応適法性の推定を受け、有効として取り扱われるものであることを認め、これによって権利、利益を侵害されたものの救済については、通常の民事訴訟の方法によることなく、特別の規定(債権者指定代理人注─行政事件訴訟法)によるべきこととした」のであって、公定力を有する。

 前記のとおり、本件建物については平成8年4月5日を以て学寮としての用途が廃止され、そのころ、債務者らがその旨を知ったことは明らかである。そうすると、行政事件訴訟法14条により、同日から3ヶ月以上経過した現在では、債務者らが用途廃止の取消訴訟を提起する由になく、しかも、右用途廃止に行政処分を無効とするような重大勝つ明白な違法が存するとは認められないのであるから、債務者らが本件建物の使用権限を失ったことは明らかであり、これが覆ることもない。

5 学生の自治等と債務者らの使用権限

 また、債務者らが、学生の自治等を根拠に、なお本件建物の占有の権限を有する旨主張したとしても、右主張もおおよそ認められるものではない。

 すなわち、旧駒場寮は国有財産であるから、その管理主体であって、同寮の管理について最終的な責任を負っていたのは東京大学学長及びその補助執行者である同大学教養学部長である。そうすると、寮生らが自治に基づいて入寮者の選考を行っていたとしても、それが東京大学学長の廃寮決定に優越し、東京大学学長の有する固有財産としての旧駒場学寮に関する管理権限を排斥する根拠とはなり得ないからである(大阪地裁昭和58年3月25日決定(大阪大学宮前寮明渡断行仮処分事件)参照、甲54(901の3の35ページ))。

第二 保全の必要性

一 公益性

1 キャンパス・プラザの建設の目的

(一) 東京大学に所属する国有財産のうち教養学部長がその実際の管理を行っているものについては、従来から、三鷹学寮(以下「旧三鷹学寮」という。)の敷地が効率的に使用されていないこと及び旧駒場学寮が老朽化し、その管理維持が困難になっていたことが特に問題となっていた。

 すなわち、旧駒場学寮は老朽化が著しく、また相部屋制のためプライバシーや個々の生活スタイルを重視する現代の若者のニーズに合致せず敬遠されがちで、経済的に必ずしも裕福でない層の自宅通学生の多くはアパート等を利用していたこpとから、入寮者数は過去20年間にわたり収容人員の半数程度でしかなく(甲48(同「添付表」)、このような状態の本件建物を学寮として今後も維持していくことは不経済であり、国有財産の有効活用を図る必要があった。

 そこで、東京大学学長は、平成3年、東京大学の学寮の一つである旧三鷹寮の敷地に、従来旧三鷹学寮及び旧駒場学寮に入寮していた学生数を合わせて収容することのできる大規模な新学生宿舎を建設して旧三鷹学寮の敷地の有効活用を図り、右新学生宿舎建設の進行に応じて旧三鷹学寮及び旧駒場学寮を順次廃止し、老朽化した旧駒場学寮の建設に代わる新たな建物を建設することによって、東京大学駒場キャンパスの効率的な敷地運用を図る計画を作成した(甲45(3、4ページ))。

 この基本計画書は、まず、平成3年10月9日の教養学部臨時教授会において、旧駒場学寮の廃寮を含む「三鷹国際学生宿舎(仮称)建設について」として決定され(甲4)、次いで、同年10月15日、東京大学学長の諮問を受けた東京大学評議会による承認を経た上で、東京大学学長により決定されたものである(甲5)。

(二) 本件建物の跡地には、学生のサークル活動支援等のための建物であるキャンパス・プラザが建設される予定である。このキャンパス・プラザは、学生及び教職員の福利厚生を図り、ことに学生に対しては、その自治活動や課外活動などの自主的で創造的な活動を支援するなど、調和のとれた豊かで多彩なキャンパスライフの場の創出を目指して策定された「CCCL駒場」計画の一環として建設が予定されている建物であって(甲32、45(4ないし6ページ)、学生の要望を考慮し、次のような施設・設備を予定している。

@ 現在、駒場キャンパスには、次300のサークルがあり、その半数近くが部室をもてない状況にあるが、キャンパスプラザが完成すると共通利用室などをもうけても新たに80以上のサークルが部室を持てるようになる。

A 体育系サークルなどのためのシャワー室、利用者のための男女別のトイレの設置も予定している。

B 従来、防音設備を施した部室は4室しかなく、音楽関係のサークルの練習場所が不足し、防音設備のない場所で練習すると近隣からうるさいとの苦情がしばしばあったことから、防音設備を備えた部屋も予定している。

旧駒場学寮は本来の学寮としての利用のほか、事実上サークルの部室として利用されていたのであるが、キャンパス・プラザの建設は、このように、駒場キャンパスにおけるサークルの部室が不足し旧駒場寮が現実に果たしていたサークルの活動場所を提供する機能を代替する性格も含まれているのである。

(三) 学生のサークル活動やクラス活動は、入学前の受験期に孤立しがちな学生が他者との出会いを通じて人格を形成する場である。そして、受験戦争によって高学歴でありながら人格が未熟な青年が生み出されるなどという教育批判がされる昨今の情勢に鑑みれば、このような人格形成の場の提供は、教育機関でもある大学にとってゆるがせにできないものであることはあきらかである(甲33、45(6,7ページ))。

(四) 東京大学は、キャンパス・プラザ整備計画予算について、文部省や大蔵省においても高く評価された結果、平成8年度予算に盛り込まれ、東京大学に示達された(甲33、45(6、7ページ))

(五) したがって、債務者らの本件建物の不法占拠によって、キャンパスプラザ整備計画の実現が大幅に遅れることを余儀なくされることは、国民や現在及び将来の東京大学の学生及び教職員らにとって到底黙示しえないものである。教育環境の充実、国有財産の有効活用という公益上の見地からも、債務者らから本件建物の明渡しを受けることは、一日を争う急務である。

2 債務者らの占有に伴う保安・治安上の危険

 債務者らによる本件建物の占有は、以下に述べるように、重大な保安や治安上の危険ないし問題を生じさせており、火災等の事故発生の危険性も極めて高く、本件建物の現状は、その保安上の見地からも一時も放棄できない状態にある。

(一) 火災事故の発生の危険

(1) 教養学部長は、債務者らに対する再三の警告の後、平成8年4月8日より本件建物に対する電気及びガスの供給を停止したが、債務者らは、コードを用いて、本件建物近くの大学施設たる建物から盗電を行っている(甲26、甲44(16ページ及び写真13ないし21))。

 教養学部長は、右盗電について再三の注意をなし、また、盗電に用いられているコードリールを回収したこともあったが、債務者らは新規にコードを調達して、現在まで盗電を継続しているものである(甲31、甲44(16ページ))。右盗電には、数十メートルの長さのコードが数十本用いられており、かつ専門的な知識や技術を有しない者によって接続や配線がなされているため、いつ漏電事故が起きてもおかしくない、極めて危険な状態にある。

 現に、平成8年11月23日には、誤ったコードの接続方法のために、電流が逆流してトランス(Q3キュービクル)内に異常な高電圧が発生するという極めて危険な状態が生じていたことが発覚した(甲27の1及び2、甲49)。

 なお、債務者らが旧駒場学寮内において電気を使用できたのは、旧駒場学寮が東京大学の厚生施設の一部であることに基づく、寮生としての地位があることの反射的利益にすぎない(旧駒場学寮を含む東京大学教養学部の各施設への電気供給契約は、東京大学と電力会社の間の契約であって、債務者らが電力会社との間で同契約を締結していたものではない。)のであるから、旧駒場学寮の廃寮及び本件建物の用途廃止により、債務者らが寮生としての地位ないし本件建物の占有権限を失った以上、教養学部長が電気の供給を停止するのは当然の措置であって、債務者らに電気の供給を受ける正当な保護すべき利益はなんら在しない。

 さらに、債務者らは、プロパンガス設備を無断で本件建物に持ち込んで使用しており、加えて、冬季に向けて石油ストーブを共同購入する計画を立てており(甲44(17ページ及び写真22ないし26)、甲50(5ページ))、本件建物は、盗電に伴う漏電、異常電圧による事故、プロパンガス、石油ストーブの火の不始末による事故がいつおこっても不思議ではないのである。

(2)現に、平成8年4月3日午前1時頃には、本件建物のうち中寮と呼ばれる建物裏のゴミ山から出火し、これは消し止められたものの、その後に北寮と呼ばれる建物の屋上出口踊り場にも不審火の跡が発見され、さらにその2日後の同月5日午前5時半ころにも、前記中寮の東側出口付近のゴミが出火し、同建物一階廊下の東側部分の天井が焼け焦げ、屋内配管皮膜及び非常用誘導灯が焼けるというボヤが発生している(甲28の1及び2、甲44(15、16ページ))。

(3)債務者らは、一泊200円の料金を徴収して本件建物に大学とは無関係な学外者を宿泊させたり、学外の団体に集会の場所として使用させたりし、平成8年12月31日には、学外者グループとデモ行進の後、平成9年元旦にかけて本件建物内で宴会を張ることを計画していた。また、平成8年11月から12月上旬にかけては、本件建物内で危険な状態に陥った学外者のため救急車が出動する事態が二度も生じている(甲50(2、3ページ))。

大学が、大学と全く無関係の者や団体の利用について供されるのは適当でないし、債務者らが国有財産を利用として利益を得ることも容認できないが、それにもまして、債務者らが、大学との無関係の者をキャンパス内に出入りさせ、本件建物に宿泊させているような状況(しかも年末年始という管理要因が手薄になる時期に多数の学外者をキャンパス内に引き入れるなどということは言語道断である。)は、不審者による放火等により、再び不審火が発生する危険性を高めるものであって、とうてい放置することができない。

(二) その他債務者らの占有に伴う不法行為

(1) 盗電

債務者らが本件建物近くの大学施設から盗電を継続していることは、前記1の(一)で述べたとおりである。

(2) 暴力行為等

@ 平成8年11月28日、債務者らの盗電を排除するため、当局が盗電元の電源を切断したところ、たまたま、本件物件付近を通行していた教官が、債務者らに取り囲まれ、襟首をつかんで引き回す、こづく、足蹴りにするなどの暴行を受け、さらには、本件建物の一室に連れ込まれて約1時間にわたって監禁された(甲51)。盗電元の電源の切断は、盗電による火災等の事故を防止する必要があったことからなされたものであるが、債務者らは、このような正当な行為に対して暴力で報復する無法な集団といわざるを得ない。しかも、監禁された教官が盗電元の電源を切断したものではないのに、債務者らは、そのようなことすら考えずに、暴行監禁に及んだものであって、債務者らは、そのようなことすら考えずに、暴行監禁に及んだものであって、債務者らに本件建物を占有させること自体キャンパス内に危険を及ぼすものというべきである。

A このほかにも、債務者らは、旧駒場学寮内の状況を確認し撮影するために寮内に立ち入った教官のカメラを奪い取るなどの違法行為を繰り返している(甲50(6,7ページ))。

B 教養学部には、キャンパス・プラザの早期実現に向けて本件建物の取り壊しに積極的に協力すべきであるとの立場を示す学生も多数存在し、これらの学生と本件建物の存続を主張する債務者との間には深刻な対立があることが窺われ、現に平成8年10月には、学内で右対立が原因と見られる暴力事件が発生ており、駒場キャンパスの治安状態にある(甲29、甲44(18ページ))。

C また、債務者ら及びその支援者と目される者は、平成8年1月18日、東京大学が実施しようとした前記「仮サークル棟」建設の入札説明会の際、極めて悪質な妨害行為を行った。

 すなわち、右同日午後1時50分ころ、入札説明会場に、黒のヘルメットを被りタオルでマスクをした者4名等を含む17名が「駒場寮廃寮を前提とする行動を阻止する。」という名目で乱入しハンドスピーカーを用いて室内で大音量を発し、説明会の開催を妨害した。そればかりか、乱入者らは、正当な理由なく入札関係書類の提示を要求し、女性を含む東京大学事務官4名を1時間以上に宜って駒場キャンパス内の説明会会場の部屋に監禁し、かつ、入札説明会に参加しようとした学外の建設関係者に対しても、「落札しても大変なことになるだけだ」などと申し向けて威嚇し、当日の入札説明会を流会させたものである(甲30の1ないし3、甲44(18ないし20ページ及び同写真27))。

 乱入した17名の多くは当時駒場学寮に居住していた学生であり、債務者らのうち、少なくとも債務者…の5名がそれに参加していた(甲44(19ページ))。

D さらに、平成8年6月14日には、「駒場寮存続」を謳う教養学部学生約20名及び学外者約40名が、第4限の授業中であるにもかかわらず、15・16号館の前でシュプレヒコールを上げた上、同日午後3時ころ、教養学部長室のある101号館に乱入しようとし、同建物の入口前で教職員を激しく揉め合い、翌朝午前2時30分過ぎまで教職員を足止めして拘束した。この際、教職員の先頭に立って応対していた教養学部教授(兼東京大学評議員)申立外永野三郎は、この途中に倒れ、救急車で搬送されて入院するに至った(甲31、甲45(2ページ))。

(3)その他

 債務者らは、教養学部長から再三に亘り退去命令を受けても退去に応じないばかりか、支援者と目される学外者を本件建物に滞在させ、あるいは周辺にたむろさせ、またバリケードを構築するなどして、教養学部管理担当者の本件建物への立入りを再三に亘り共同で阻止している(甲20の1ないし3、甲25、甲44(10ないし12ページ及び写真3ないし7))。このため、教養学部の管理担当者は、本件建物の現況及び利用状況を把握することが不可能な状態にある。

 また、債務者らは、旧駒場学寮は「学生の主体性に委ねられた自主管理=自治空間」である、「駒場寮の使用は違法ではない」などと称し、一般の教養学部生に対しても、「駒場寮自治会」ないし「駒場寮委員会」の名で、クラスルーム、駒場祭(教養学部学園祭)準備、さらには仮宿泊といった名目で本件建物の利用を勧めており、これらの利用者の数や名称等も、教養学部管理担当者には一切不明である(甲21ないし25、甲44(13、14ページ))。

 さらには、教養学部管理担当者は、本件建物内の空室になっている居室について、施錠によってこれを再三封鎖しているが、それもすぐに債務者らによって破壊または開錠されている(さらに、債務者らによって独自の施錠がなされている箇所もある。)教養学部管理担当者がこれまでに確認することができただけでも、少なくとも8か所の施錠が債務者らの手によって破壊または施錠され、持ち去られているという有様である(甲44(12ページ))。

(四) これらの違法行為は、本件建物の占有維持を目的としてまたはこれに付随して行われているものであるが、これらの違法行為が国立大学のキャンパス内で公然と行われているという事態は、教職員及び一般学生に不安動揺を与えるものであって教育研究活動に支障を生じさせるものである。

三 新入生が本件紛争に巻き込まれることを予防する必要があること

 債務者らは、旧駒場学寮の廃寮後も、「旧駒場寮自治会」ないし「駒場寮委員会」と称して、違法な入寮募集を継続している(甲41(表紙、奥付)、42の1及び2、甲44(13ページ)、甲45(15ページ))。

 債務者らのこれまでの行動から推して、右のような違法な入寮募集活動は、債務者らが本件建物を占有する限り継続することが確実であるが、もし、債務者らが平成9年4月以降も本件建物の占有を継続する場合には、右の時期に東京大学に入学する新入生に対しても、違法な入寮を勧誘することが確実に予想され、事情を知らない新入生が勧誘に応じて本件建物内に居住を開始する可能性が大きい。

 この場合、東京大学学長及び教養学部長による本件建物の管理ないし居住状況の把握がますます困難になること、債権者が本件建物の明渡しを得るべく法的手段を執ることが困難となることはもちろん、事情を知らずに勧誘に応じた新入生が、前記のような違法行為を行っている不法占拠者である債務者らに巻き込まれるという事態は、新入生の勉学やキャンパスライフに支障を生じさせないという教育上の見地から絶対に避けなければならない(甲44(21、22ページ))。もちろん、東京大学として、新入生に対する広報活動によって右の事態を防止する用意はあるが、これをもって完全に防止できるとはいい切れない。新たに不法占拠者に加えられる者が出ることを防止する見地から、債権者は、新入生が入学する平成9年4月以前に、何としても債務者らから本件建物の明渡しを受ける必要がある。

四 債務者らに利益のないこと

1 居住場所の確保

(一)利用の一時性

そもそも債務者らのうち学生の者による本件建物の利用は、学寮としての利用であって、東京大学教養学部に在籍する間の居所としての一時的な利用であり、通常の賃貸借契約に基づく利用のような相当長期間の継続的な利用を予定していないものである。

(二)代替場所

債務者らのうちには、東京都内及び近郊の通学圏内に自宅のある者が23名おり(甲19の8ないし11、甲35の1・3ないし19・21ないし24)、これらの者は、本件建物から退去しても、基本的には居住場所の確保について問題がないと思料される。

 また、教養学部は、旧駒場学寮の廃寮が正式決定された直後の平成7年10月17日の段階で、その当時旧駒場学寮に正規に入寮している学生には、新たに建設された三鷹国際学生宿舎への優先入居を認める措置を講じた。そして、実際にこの優先入居制度により、計41名の学生が旧駒場学寮から三鷹国際がkせいしゅくしゃに転居した(甲14、甲36、甲37の1及び2、甲44(22、23ページ)、甲45(15ページ))。

 右優先入居制度の実施は、一応終了しているが、教養学部は、現在でも、三鷹国際学生宿舎に相当数の空室を確保したままにしており、債務者らのうち本件建物に正規入寮した本学学生に対して、三鷹国際学生宿舎の入居が可能になるように準備している。

 三鷹国際学生宿舎における居住にかかる費用は、一人当たり月額8300円(宿舎費2550円、共益費2000円及び自治会費450円の合計)であり(甲38(5ページ))、旧駒場学寮の費用と比して月額3300円の負担増となるものの、その絶対額自体が世間相場に比較して格段に低廉である。さらに、三鷹国際学生宿舎での居住費用と旧駒場学寮の居住費用との差額、新たに生じる通学費2460円(吉祥寺─駒場東大前間の1ヶ月通学定期代)の負担が経済的に困難な学生に対しては、日本育英会などの公的奨学金とは別に、教養学部教官が私費を拠出して「駒場国際交流奨学金」を設けてある(甲39の1及び2、甲44(24ページ)、甲45(13ページ))。

(三)その他

本件建物の居室を利用して行われているサークルに活動に対しても、プレハブの「仮サークル棟」2棟のスペースが用意されており、既に多数のサークルが仮サークル棟に移転している。仮サークル棟には空室が相当数残っており、現在本件建物を利用しているサークルもすべてが仮サークル棟に移転することが可能である(甲40、甲44(25ページ及び写真28の及び29)

2 占有の不法性

 前記のとおり、債務者らには本件建物を使用する権限がないことは明らかであるから、債務者らが本件建物を明け渡すとしても何らかの保護されるべき利益が侵害されるものではない。また、本件建物の用途廃止の公定力によって、債務者らが用途廃止の取消訴訟を提起する由になく、しかも、右用途廃止に行政処分を無効とするような重大かつ明白な違法が存するとは認められない以上、債務者らが本件建物の使用権限を失った事態が後に覆ることがないことも、前記のとおりである。

3 以上のことから、債務者らが本件建物から退去した場合に被る被害や支障はほとんどないことが明らかである。

三 本件明渡断行の仮処分が必要止むを得ないことであること

1 廃寮と同時に速やかにキャンパス・プラザの建設に着手する必要

東京大学は、キャンパス・プラザ整備計画予算について、文部省を経由して概算要求を行い、右要求は、文部省や大蔵省においても高く評価された結果、平成8年度予算に盛り込まれ、東京大学に示達された(甲33、甲45(6、7ページ))が、債務者らが本件建物を占有しているために、既に、同年度中に右予算を着工できる見込みが立たない場合には、右キャンパス・プラザ整備計画予算は返上しなければならない事態となる(甲34、甲47(7ないし8ページ))。

 しかし、教養学部としては、本件建物の明渡しの後で予算措置をとることができない。なぜなら、寮は、経済的に就学が困難な学生に対し、低廉な費用負担で宿舎を提供するものであるから、教養学部に在籍する学生の寄宿舎が存在しなくなる事態は許されないし、キャンパスプラザには、旧駒場学寮が現実に果たしていた本件建物の明渡しの後これらについての予算措置をとっていては、学生にプレハブの仮サークル棟の利用という不便を長期間強いる事態となるからである。

 このように教養学部は、駒場学寮の廃寮と同時に、速やかにキャンパスプラザの建設に着手する必要が極めて高いことから、事前に予算措置も講じていたのであって、旧駒場学寮を廃寮し債務者らから本件建物の明渡しを受けた後で、三鷹国際学生宿舎及びキャンパスプラザの建設のための予算措置を講じることは困難であった。予算執行上の見地からも、債務者らから本件明渡しを受けることは、一日を争う急務である(甲53)。

2 廃寮は事前に予定していたものであること

 東京大学は、新入生が入学後教養学部に在籍し、旧駒場学寮に入寮する可能性があることから、平成4年4月以来、入学式や入学手続の際に近い将来旧駒場寮が廃寮になる旨のパンフレットを配布し、さらに、平成6年度の入学予定募集要項においても、三鷹国際学生宿舎の建設計画の進捗に応じ駒場学寮の機能が三鷹国際学生宿舎に吸収されていく旨記載し、近い将来旧駒場学寮が廃寮になることを周知してきた。一方、三鷹国際学生宿舎の工事が進捗し、相当数の部入居が可能になったことから、平成7年4月入学の新入生に対し旧駒場学寮の入寮募集は行わないこととし、新入学生については三鷹国際学生宿舎に入居させることにした(甲52(4ないし6ページ))。

 また、東京大学は、平成8年3月31日をもって旧駒場学寮を廃寮することについて、旧駒場学寮の在寮生に対しては、平成7年9月21日付教養学部長の文書(「駒場学寮廃寮による在寮期限について」、甲12)を郵送してこれを通告し、教養学部学生に対しては、同年10月17日の正式決定を受けて、同日駒場学寮の廃寮を告示した(甲13、甲14、甲44(6ないし9ページ及び写真1))。

 本件債務者のうち…(以下22名の実名)は、平成7年4月以降に入寮した者であって(第1の3の3の(一)(8ページ))、旧駒場学寮が廃寮になることの予告を受けた上で入寮したということができ、東京大学長の一方的な突然の使用権限を失う事態となったのではない。

 なお、東京大学は、その後も、旧駒場学寮の在寮生に対し、平成8年3月13日付教養学部長名の文書(「駒場学寮の在寮期限について」甲15)送付して在寮期限が同年3月31日であることを通告した。そして、同年4月1日には、旧駒場学寮自治会交渉代表に対して、教養学部長名で廃寮を伝え(甲16)、併せて、同日その旨を掲示したのである(甲17、甲44(8、9ページ及び写真2))。

四 占有移転禁止仮処分と合わせ本件明渡断行の仮処分を得る必要性。

1 学生に対する説明、協議

 東京大学は、それが前記基本計画を具体的に実施するにあたり、教養学部に在籍する学生及び旧駒場学寮の在寮生の理解を得、かつ、これらの者の意見を可能な限り右計画に取り入れて反映させるべく対処してきた。

 旧駒場学寮の廃寮を含む「三鷹国際学生宿舎(仮称)建設について」という基本計画が平成3年10月15日正式決定されるたことを受けて教養学部が設置した三鷹国際学生宿舎特別委員会は、同月16日、当時駒場学寮委員会(債務者駒場寮自治会の執行機関)正副委員長に対し、その基本方針を説明した(甲9、甲45(10ページ))。そして東京大学は、旧駒場学寮の在寮生を含む教養学部学生に対しては、同月17日「21世紀の国際学生宿舎を目指して」というパンフレットを配布するほか、同月21日は同内容を東京大学広報に掲載した(甲10、甲11の1)。また、この当時から、東京大学は、学生らを対象とするアンケート調査を実施して。その意見を徴収するべく努めてきた(甲11の2及び3)。

 さらに教養学部及び右特別委員会は、同月24日公開説明会を開催して質疑応答や学生からの意見徴収を行い、その後も教養学部学生、各学生自治団体及び旧駒場学寮の在寮生らとの間で、幾度となく説明や意見徴収の場を持ってきたものである(甲11の4、甲45(7ないし12ページ))。

 このように、東京大学は、学生らの協力を得ながら円滑に旧駒場学寮を廃止しキャンパス・プラザ建設に着手すべく、旧駒場学寮の廃寮に至るまで最大限の努力を払ってきた。

2 占有移転禁止仮処分命令の申立て、その決定及び執行

 しかしながら、債務者らは、旧駒場学寮の廃寮後も、東京大学学長及び教養学部長の管理権をほとんど全面的に排除して、本件建物を共同して占有し続けている。

 右のような事態に対して、東京大学は、引き続き債務者らに対し説明と説得を試みたが、結局、法的措置を採ることもやむを得ないとの判断に至り、将来の明渡請求訴訟の提起に備え民事保全手続の利用を検討したのであるが、とりあえずより緩やかな手段として占有移転禁止の仮処分の方法を選び、法的措置も辞さないという債権者の毅然とした態度を示しつつ、債務者らによる任意の明渡しを促すこととした。そこで、本件建物につき本件の債務者のうち20名を債務者とする占有移転禁止仮処分命令(平成8年ヨ第4302号)を得、同執行事件の執行は平成8年9月10日に行われた(甲18(1丁目))。

 しかし、この執行の際、債務者駒場寮自治会の執行機関である「駒場寮委員会」は、「一切の協力、質問には答えないように」とのアナウンスをし、債務者らを含む在寮者はこれに応じて答えないなど、執行官による占有状況の調査すら拒むといった態度に出た(甲18(3丁目))。また、債務者らは、右仮処分の執行後も、なお、旧駒場学寮は「学生の主体性に委ねられた自主管理=自治空間」である、「駒場寮の使う用は違法ではない」などと称している(甲21ないし、25)。さらには、債務者駒場寮自治会も本件の占有主体であるとして、右執行事件について執行異議を申し立てるという、占有移転禁止の仮処分の申立時には予想もしなかった新たな事態も生じた(甲19の1(5丁目))。

3 以上のとおり、東京大学は、学生らの協力を得ながら円滑に、キャンパス・プラザ整備計画予算を執行することができるよう、最大限の努力をしてきたのであるが、右の経過を受けて、もはや債務者らの任意の明渡しによるキャンパス・プラザの建設は不可能であり、しかも本案訴訟による明渡しを待っていたのでは、予算を返上せざるを得なくなりキャンパス・プラザの建設が困難となること、新入生が本件訴訟に巻き込まれる事態を避けがたいことから、必要上やむを得ないものとして、本件仮処分の申立てに至ったのである(甲55)。

五 大学学生寮について明渡断行の仮処分が認められた裁判例

 債権者が調査したところ、大学学生寮について明渡断行の仮処分が認められた裁判例の概要は、次の通りである(甲54)。

1 校舎の新営工事の必要を重視したと思われる裁判例

群馬大学学生寮(前橋地裁桐生支部昭和45年2月5日決定)

右事件は、群馬大学工学部学生寮について、科学系学科校舎の新営工事の関係資材ないし施設等の敷地として同寮を解体し、これを敷地として利用することになっており、また、新学生寮を用意し本件明渡しにより債務者らが居住にこと欠くことはない旨の債権者の保全の必要性の主張を認めて、右寮に残っている債務者ら学生に対し明渡断行の仮処分を命じた事例である(甲54(880ページ))。

 本件のキャンパス・プラザは、学生及び教職員の福利厚生、あるいは学生の自治活動や課外活動支援のための施設であり、純粋な教育施設ではないが、教育施設に優るとも劣らない公益性を有することは前記のとおりであり、本件は右の事例に類似するものということができる。

2 管理上の問題点に着目したと思われる裁判例

(一) 東京外国語大学学生寮(東京地裁昭和51年3月19日決定)

 右事件は、右大学学長の入寮許可を受けていない学生及び学外者を債務者とするもので、多数の学外者を含む債務者らが不法に右大学の居住を続け、管理担当者が寮内に入ることを妨げるに等して大学当局の管理上の指示に全く従わないこと、寮居住者と地元住民との間の暴力事案等のトラブルが続発していること、右学寮が極めて老朽化していること、債務者らが不法に居住を続けるため改築計画が大幅に遅れていること、寮生数は定員120名のところ名簿上21名にすぎず、寮の維持に多額の経費を要していること、債務者らは本件建物から退去しても他に居住場所を求めることができること等の債権者の保全の必要性の主張を認めて、債務者らに明渡断行の仮処分を命じた事例がある(甲54(901の3の10ページ))。

 在寮者が大学当局の管理に従わないこと、暴力事案等のトラブルが生じていることに加え、新建物の建築計画が阻害されることを保全の必要性の要素としている点で、本件と類似している。

(二)大阪大学宮前寮(大阪地裁昭和58年3月25日)

右事件は、右大学生の身分を失った者及び同大学学生ではあるが総長または学生部長から入寮許可を受けていない者を債務者とするもので、債務者らが、大学職員等が右寮に立ち入るのを拒否するなど、大学当局が同寮を管理することを半ば不能にしていること、大学の管理職員の勤務する部屋の窓に黒い塗料を吹き付けるなどの非行を行ったこと、大学当局が電気及びガスの供給を停止てたところ寮内に時価発電器を持ち込み居室に送電したり、プロパンガス設備を持ち込み自炊に使用していたところ、右自家発電機に燃料のガソリンを注入する際ライターの火がガソリンに引火し火災が発生したのに、債務者らはその後も自家発電機とプロパンガス設備の使用を続けていること、大学当局が現状のまま入寮募集を再開するときには一層の混乱を招くことが予想されること等から、債権者の保全の必要を認めて、債務者らに対し横断断行の仮処分を命じた事例である(甲54(901の3の35))。在寮者が大学当局の管理に従わない点、非行がある点、火災発生の危険に着目している点で、本件と類似している。

(三)その他、東京外国語大学学生寮事件(東京地裁昭和51年7月15日決定)は、右大学学生の身分を喪失した元学生及び退寮した学生を債務者とするもので、右学寮が極めて老朽化しており、たこ足配線による火災は発生して付近の住民に不測の損害を与えるおそれがあること、寮経費を軽減する必要があることともに、右寮の跡地に建設する予定の新学寮の予算請求上、緊急の必要があること、債務者らは本件建物から退去しても他に居住場所を求めることができること等の債権者の保全の必要性の主張を認めて、債権者らに対し明渡断行の仮処分を命じた事例であり(甲54(901の3の10ページ)、火災発生の危険に着目している点で本件の参考となると考えられる。

4 その他

寮生の寮における活動による危険性を重視したと思われる裁判例として、@東工業大学学生寮事件(東京地裁昭和45年6月8日決定、東京工業大学学生寮について、同寮が老朽化危険物であること、同寮が残存しているために予算計上ずみの社会工学科関係の建物とその他の諸施設の建設計画が頓挫していること、代替の寮があり債務者らが本件建物から退去しても居住に事欠くことはないこと等の債権者の保全の必要性の主張を認めて、債務者ら学生に対し明渡断行の仮処分を命じた事例)、A神奈川大学学寮事件(横浜地裁昭和57年11月29日決定、債務者の廃寮宣言によって右寮の占有権限を失った同大学学生を債務者とするもので、内ゲバ事件の発生、本件建物部分に設置されたバリケードの状況等に照らし、債権者が学内の秩序を取り戻し、平穏な教育環境を回復するため、本件断行の仮処分を求める保全の必要性も是認されるとして、債務者らに対し明渡断行の仮処分を命じた事例)がある。@の事例は予算計上済みの建設計画の阻害を、Aの事例は平穏な教育環境の回復を、それぞれ保全の必要性の一要素としている点で、本件の参考になると考える。

疎明方法

別紙疎明方法記載のとおり

添付書類

指定書 2通

疎明資料(甲1ないし55) 130通

国有財産管理簿 3通

平成9年2月4日

右指定代理人

伊藤顕 印

前澤功 印

今井廣明 印

関小百合 印

上國料伸一 印

宮田靖之 印

重光良一 印

服部雄幸 印

飯塚素弘 印

永野三郎 印

小林寛道 印

杉田信孝 印

右松鉄人 印

菊池力 印

東京裁判所御中


「1997年1-2月」 | 資料集成